ストックオプションの概要とその種類とは

目次

  1. はじめに
  2. ストックオプションとは?
  3. ストックオプションの仕組みと流れ
  4. ストックオプションの種類
    1. 税制適格ストックオプション
    2. 税制非適格ストックオプション
    3. 税制適格と税制非適格ストックオプションの違い
    4. 有償ストックオプション
  5. ストックオプションのメリット・デメリット
    1. 役員・従業員側のメリット・デメリット
    2. 会社側のメリット・デメリット
  6. おわりに

1. はじめに

会社が業績アップや優秀な人材確保を目的に使える制度のひとつにストックオプションがあります。
ストックオプションは会社に所属する取締役(役員)や従業員が受けられ、仕事の貢献度に対してインセンティブとして機能する制度です。
ストックオプションを制度として導入していれば、会社にも役員・従業員にも様々なメリットがあります。
この記事では、ストックオプションについて、その仕組みやメリット・デメリット含む、ストックオプションの概要や種類について詳しく解説します。

2. ストックオプションとは?

ストックオプションとは、会社が自社の役員や従業員に対して、会社の株式を予め決めた価格で将来取得する権利を付与する制度のことです。
ストックオプションはアメリカ発祥の制度ですが、日本でも1997年、2001年に商法(現:会社法)が改正され、活発に使用されるようになりました。
ストックオプションを付与された役員・従業員は、一定の期間が経過した後に、会社が予め決めた価格で株式を購入する権利を行使することができます。
さらに権利の行使により会社の株式を受領した役員・従業員は、将来会社の株価が上がれば、そもそも株式を受領した際、優遇された予め定められた価格で株式を取得しているため、売却することで売却金額と取得原価の差額分の利益が得られます。
ストックオプションはその制度上、会社の業績が向上し株価が上昇することで将来得られる株式売却益(キャピタルゲイン)が増加する仕組みであり、会社で働く役員・従業員の労働上のインセンティブとして機能するため、最近では導入する企業が増加中です。
またストックオプションに向いている企業としては、将来IPOをめざすベンチャー企業やさらなる成長を図りたい上場企業が適しています。
なお、ストックオプションとよく似た機能を持つ制度に「新株予約権」があります。
新株予約権とは、会社が新たに発行する株式を予め定められた条件で購入できる権利です。
一見新株予約権とストックオプションは機能がよく似ているように思えますが、まさにその通りで、じつはストックオプションは新株予約権タイプのひとつなのです。
社外の投資家や株主に主として資金調達を目的に発行されるのが新株予約権で、報酬(労働や業務執行の対価)として、社内向けに発行される新株予約権がストックオプションといえます。

3. ストックオプションの仕組みと流れ

 
図1 ※当社作成

ではさらに詳しく、期間と株価という項目を使い、上記の図をもとにストックオプションの仕組みと流れを見ていきましょう。
  1. 企業は会社の業績に貢献してくれそうな役員・従業員を選んで、「当初に予め設定した価格で株式を購入する権利」いわゆるストックオプションを付与します。この図では権利付与時の行使価格を500円と設定しています。
  2. 役員・従業員は社内で働きつつ一定の期間が経過し、株式を購入する権利が行使可能な期間になった後、付与された権利を行使して、付与時に設定された価格で自社の株式を購入できます。
    上図では権利行使のタイミングで会社がIPO(株式上場)を果たしており、そのときの株価は1,000円に上がっています。(権利行使のタイミングはIPO以外にもM&A成立等のケースもあります)
    しかし役員・従業員は1株当たり500円の行使代金を払って時価評価額1,000円の株式1株を受領した状態なので、この段階においてはまだキャッシュは入っていません。(ただし既に評価益500円は潜在的に生まれています。
    この段階では、役員・従業員はストックオプションの権利を行使してただ株式を保有しているだけの状態です。
  3. 上図ではIPO後も会社は成長して、その成長・業績向上の動きに合せて株価も上昇を続けています。
    そして一定期間の後、ストックオプションの行使で株式を得た役員・従業員は保有する株式の全部または一部を売却して利益を実現します。
    この図では株価が1,500円となっているので、行使価額500円との差額1,000円が役員・従業員の実現益となります。
これがいわゆるキャピタルゲインといわれるものです。
ストックオプション制度では、このように権利行使と株式売却でタイミングがずれているということ、また、詳細は後述しますが、いつの時点で課税が行われるか(権利行使時か株式売却時か)、どのような課税が行われるか(給与所得として総合課税か譲渡所得つぃて分離課税か)に注意が必要です。

4. ストックオプションの種類

ストックオプションの種類に関しては下図のように分類できます。
それぞれの特徴を図に沿って順番に簡単に解説します。(個々のストックオプションの詳しい解説は今後別の記事で順に行う予定です)
 
図2

ストックオプションの種類には、まず、権利取得に金銭の払込を要するかにより、ストックオプションの権利を無償(いわゆるただ)でもらえるタイプと、役員・従業員が一定の金額を会社に払って獲得する有償タイプがあります。
さらに無償ストックオプションには、税制優遇措置の有無により、税制適格のタイプと税制非適格なタイプの2種類があります。

4.1 税制適格ストックオプション

税制適格ストックオプションとは、付与の際にお金がかからない無償タイプのうち、会社が付与対象者、行使期間などの条件で厳しく税制上の適格要件を満たすことで、権利行使時の給与課税で(最大55%(所得税+住民税))を免れるという税制優遇措置を受けたタイプをいいます。
つまり、このオプションを付与された役員・従業員は、権利行使時の課税は繰延べられ、株式売却時のみ課税され、また、株式売却時の課税は譲渡所得(所得税+住民税で約20%)となります。(売却時株価と権利行使価額との差額に税金が課されることとなる。)

4.2 税制非適格ストックオプション

税制非適格ストックオプションとは、同じ無償タイプのうち、税制適格タイプのような厳しい要件は満たす必要がない代わりに、権利行使時に権利行使時株価と権利行使価額との差額に給与課税(最大55%)がされてしまうタイプをいいます。なお、株式売却時の課税は譲渡所得(所得税+住民税で約20%)となります。(売却時株価と権利行使時株価との差額に税金が課されることとなる。)

4.3 税制適格と税制非適格ストックオプションの違い

当初図で示したように無償ストックオプションには税制適格と税制非適格の2種類があります。
適格要件の有無の差で税制が大きく変わってくるので、ストックオプションを付与する会社側も付与される役員・従業員側もその内容をよく理解しておく必要があります。(付与される側も確定申告が必要なケースがあるから)
以下はその違いを一覧で図式化したものです。
それぞれストックオプションの権利を所持していた方が、権利を行使して株式を受領するタイミング、株式保有後の一定期間内に株式を売却した時点での課税関係を示しています。
 
図3 ※当社作成

税制適格ストックオプションの権利を所持していた方は、権利行使時には税金はかからず、売却時に1回だけ税金がかかります。
さらにその税金は給与課税でなく、税率で優遇されている譲渡課税が適用されるのかポイントです。
一方税制非適格ストックオプションの権利を所持していた方は、権利行使時にまず権利行使時の株価と権利行使価額の差額に最大で55%の税率が適用される給与課税がなされ、売却時にも実現利益(株式売却時の株価と権利行使時の株価の差額)に対して譲渡課税されます。
つまり、課税を2回されるのが税制非適格ストックオプションなのです。

4.4 有償ストックオプション

有償ストックオプションとは、無償タイプと異なり、付与の際に役員・従業員が会社の設定した発行価額に基づき、自分のお金を払って権利を取得するタイプのストックオプションです。
「労働の対価」とみなされる無償ストックオプションと違い、有償ストックオプションは付与者が最初にお金を払い込んで権利を購入しているので、税務上「有価証券」として取扱いされています。
そのため、無償税制非適格タイプと比べ、課税される回数が少ない、課税される税率が低くなる(但し、給与所得の水準によっては譲渡課税の方が高くなるケースもありうる)などのメリットがあります。

5. ストックオプションのメリット・デメリット

ストックオプションは付与された役員・従業員にメリットが多そうな制度ですが、制度である以上、有償・無償の違いや会社のストックオプションの使い方等でデメリットもあります。
本章では役員・従業員側と会社側の順に、各々ストックオプションのメリット・デメリットを解説します。

5.1 役員・従業員側のメリット・デメリット

【メリット】
  • 役員や従業員が業務で努力し成果を上げた結果、会社業績が上がり株価も上昇してキャピタルゲインが増える
  • 所属する会社の株式を自分のお金で購入して保有すれば株価下落時に損失のリスクがあるが、無償でストックオプションの権利だけを所持しておけば、株価上昇時のみ権利を行使して利益を確定でき、逆に下がっても権利を行使せず株価が上がるまで待てば良いか、株価が上がらなければ権利を放棄すればよい
  • 会社業績への貢献を給与報酬でもらうと給与課税で最大55%の税金がかかるが、株式が報酬であるストックオプションのうち「税制適格タイプ」という条件であれば、譲渡課税(約20%)で済むので税負担が軽くなる
【デメリット】
  • 想定外の要因による長期間の株価下落が起こった場合、ストックオプションの権利を付与された役員・従業員の業績に対する士気低下を招く恐れがある
  • ストックオプションの権利には、行使後の早期退職リスクを防ぐため、行使までの期間設定をされているのが一般的だが、設定期間前に権利を付与された役員・従業員が退職してしまうと、その時点で未確定のストックオプションは失効して権利行使できなくなる

5.2 会社側のメリット・デメリット

【メリット】
  • ストックオプションは自社株価が上がれば上がるほど、キャピタルゲインも上がる特徴を持つため、権利を付与された役員・従業員は個人的にも大きい利益を実現するため、より仕事に励むというモチベーションが働く
  • 会社がストックオプション制度を導入していると、将来的な株価の値上がりで大きなキャピタルゲインが期待できるため、それを励みとする優秀な人材が獲得できる
  • 金銭報酬ではなく株式を購入する権利による報酬であるため、給与等のキャッシュアウトを抑えることができる。
  • ストックオプションは役員・従業員だけでなく、一定の要件を満たす場合、社外の協力者(弁護士等の高度人材)にも付与できる。社外協力者に付与すれば、社内付与者同様、業績に対するモチベーションアップにつながるとともに、報酬が権利なので当面の間、会社から現金流出せずその資金は本業に回せる
【デメリット】
  • メリットのまさに逆だが、業績の低下や外部要因で株価が行使価格を下回った場合、権利行使でキャピタルゲインが得られないので、付与された役員・従業員の士気低下を招く
  • ストックオプションは付与する前に誰に付与するか、会社が対象者を選ぶが、付与基準があいまいだと付与された者と付与されなかった者の間に不信感・不公平感ができてしまい関係悪化からモチベーション低下につながってしまう
  • (誰にどれだけいくらで付与しているかは、IPO時に開示する有価証券届出書にて原則として開示されることとなる。)
  • ストックオプションの権利を得た役員・従業員が権利を行使してキャピタルゲインを得ると、多額のキャッシュが手に入るため、以降その会社で働き続ける動機を失う。下手するとそれが退職につながり以後のストックオプション効果がなくなる
  • ストックオプションの大量付与は、権利行使後の株式保有者が増えるという、いわゆる潜在株主の増加を意味する。それは株式の希薄化につながるので、既存株主の株式価値の低下を招くリスクを背負う(一般的にストックオプションの持分比率は会社の発行済み全株式に対して10%程度が望ましいとされている)

6. おわりに

ストックオプションの概要と種類について詳しく解説しました。
メリット・デメリットの項でも述べたように、ストックオプションは会社側、付与される側、双方に大きなメリットがあります。
しかし、同時に使い方次第でデメリットも発生するので、ストックオプション制度を導入しようとする会社はその仕組みや内容をよく理解して、うまく使い分けていく必要があります。
次回からは個別のストックオプションについて順により詳しく解説します。