税制適格ストックオプションとは

目次

  1. はじめに
  2. 税制適格ストックオプションとは
  3. ストックオプションの種類と税制適格ストックオプションの位置づけ
  4. 税制適格ストックオプションと税制非適格ストックオプションの主な違い
  5. ストックオプションが税制適格となる要件
  6. 税制適格ストックオプションのメリット・デメリット
    1. 【メリット】
    2. 【デメリット】
  7. 税制適格ストックオプションはどんな方に付与すべき?
  8. おわりに

1. はじめに

税制適格ストックオプションとは、役員・従業員の労働や業務執行に対するインセンティブ報酬として機能するストックオプション種類のひとつです。
会社が税制適格ストックオプションをうまく活用すれば、役員や従業員がより意欲的に働くようになり、業績も上がって会社を成長させることができます。
一方で税制適格ストックオプションを使うためには、税制上満たすべき様々な要件があるため、設定の段階から公認会計士や税理士等の専門家の助言も必要です。
本記事では、税制適格ストックオプションについて、その概要や税制適格となる要件、利用上のメリット・デメリットなど詳しく解説します。
なお、全般的なストックオプションの概要とその種類については、以下の記事を参考にして下さい。
「ストックオプションの概要とその種類とは」

2. 税制適格ストックオプションとは

税制適格ストックオプションとは、付与の際にお金がかからない無償タイプのうち、会社が付与対象者、行使期間などの項目で厳しく税制上の適格要件を満たすことで、権利行使時の給与課税で(最大55%(所得税+住民税))を免れるという税制優遇措置を受けたタイプをいいます。
このオプションを付与された役員・従業員は、権利行使時の課税は繰延べられ株式売却時のみ課税され、また株式売却時の課税は譲渡所得(所得税+住民税で約20%)となります。(売却時株価と権利行使価額との差額に税金が課されることとなる)

3. ストックオプションの種類と税制適格ストックオプションの位置づけ

図1

ストックオプションの種類には、まず権利取得に金銭の払込を要するかにより、ストックオプションの権利を無償でもらえるタイプと、役員・従業員が一定の金額を会社に払って獲得する有償タイプがあります。
さらに無償ストックオプションには、税制優遇措置の有無により、税制適格タイプと税制非適格タイプの2種類があります。

4. 税制適格ストックオプションと税制非適格ストックオプションの主な違い

図2

税制適格タイプと税制非適格タイプの違いを説明します。
上の図は、各々(税制適格と税制非適格)のストックオプションの権利を所持していた方が、権利を行使して株式を受領するタイミング、株式保有後の一定期間に株式を売却した時点での課税関係を示しています。
税制適格ストックオプションの権利を所持していた方は、権利行使時には税金はかからず、売却時に1回だけ税金がかかります。
さらにその税金は給与課税でなく、税率で優遇されている譲渡課税が適用されるのかポイントです。
一方税制非適格ストックオプションの権利を所持していた方は、権利行使時にまず権利行使時の株価と権利行使価額の差額に最大で55%の税率が適用される給与課税がなされ、売却時にも実現利益(株式売却時の株価と権利行使時の株価の差額)に対して譲渡課税されます。
つまり、課税を2回されるのが税制非適格ストックオプションです。
税制適格タイプと税制非適格タイプにはこのような違いがあります。

5. ストックオプションが税制適格となる要件

会社が発行するストックオプション(以下表内ではSOPで表記)が税制優遇措置を受けるには、付与対象者や権利行使期間などの項目において以下のすべての要件を満たさなければなりません。

【税制適格のための要件(租税特別法第29条の2に記載されている要件)】
参照先:E-GOV法令検索 租税特別法
図3

(※) 権利行使価額の年間合計額が1度でも1,200万円の上限を越えてしまうと、税制適格ストックオプションの適用から外れてしまうので注意が必要です。
つまりある年の権利行使価額が1,500万円であった場合、上限を超えた300万円だけに課税されるのでなく、1,500万円全体に課税されます。
さらに税制適格タイプでは、1度でもこの要件を外すと、以降の年間行使価額にかかわらず、税制適格の対象でなくなります。

6. 税制適格ストックオプションのメリット・デメリット

税制適格ストックオプションのメリット・デメリットは以下の通りです。

6.1 【メリット】

  • 自社株を相場より安く購入できる可能性がある
税制適格ストックオプションを付与されていれば、権利行使時に株式の時価が行使価格を上回っていた場合、自社株を相場より安く購入できる仕組みとなっています。

  • 税金の発生タイミングが少ない
税制非適格ストックオプションを所持する方が2回課税されるのと比べると、税制適格ストックオプションを所持する方は株式を売却した場合のみ課税されるので、これはメリットといえます。
  • 税率が低い
税制非適格ストックオプションでは、権利行使時に最大55%、売却時に約20%の税率の課税が発生します。
一方税制適格ストックオプションでは、権利行使時に課税が繰延べられ、売却時に約20%の税率で課税が発生するのでお得です。
  • 権利付与された従業員のリスクがない
税制適格ストックオプションは無償で発行されるため、権利付与された従業員はリスクがありません。
権利だけを所持しておけば、株価上昇時のみ権利を行使して利益を確定でき、逆に下がっても権利を行使せず株価が上がるまで待てば良いか、株価が上がらなければ権利を放棄すればよいだけです。

6.2 【デメリット】

  • 制適格でないと累進課税が課される
税制適格ストックオプションを付与されていても、税制適格要件を外れた場合、キャピタルゲインを得る前に給与課税(最大55%)が課されます。
これは税制適格ストックオプションの最大のデメリットです。
  • 税制適格要件を満たすため付与できる株式数に限界がある
ストックオプションが税制適格要件を満たすためには、行使者の権利行使価額を年間1,200万円以下に抑えなければならない制限があります。
この制限のため、一人に対して大量に付与できないデメリットがあります。
  • 無償で付与するため従業員への効果が限定的
ストックオプションを付与されるのが役員なら、経営に関わる幹部の一人なのでインセンティブ効果も期待できます。
しかし税制適格ストックオプションを付与されたのが従業員の場合、人にも寄りますが、無償でもらっているため、ありがたみが実感できず、インセンティブ効果が薄くなってしまうこともあります。
  • 付与については株主総会での決議が必要
税制適格ストックオプションは無償で付与できるので、付与対象者が取締役の場合、株式報酬と見なされ株式総会での報酬に係る決議が必要となります。
ただし付与対象者が従業員のみの場合は取締役会の決議のみ(公開会社で有利発行に該当しない場合)で発行可能です。
なお、非公開会社においては、付与について株主総会の特別決議が必要となります。

7. 税制適格ストックオプションはどんな方に付与すべき?

最後に、会社が税制適格ストックオプションを付与する場合、どのような対象者に付与すべきか、付与対象者とその理由を解説します。
  1. 従業員
    一般的に従業員に付与するストックオプションの種類としては、税制適格ストックオプションが最も適切といえます。
    税制適格ストックオプションを従業員に付与しておけば、税優遇措置を受けているストックオプションなので、従業員の支払う税金負担は少ないです。
    当然インセンティブ効果も期待できます。
  2. 役員
    役員もまた税制適格ストックオプションを付与する対象としては適切です。
    ただし役員の場合、従業員と異なり経営幹部のひとりなので、会社の業況に応じて他のストックオプションの選択肢も考えておく必要があります。
    それが税制非適格ストックオプションです。
    税制非適格ストックオプションは「株式報酬型ストックオプション」とも呼ばれている新株予約権です。
    株式報酬型ストックオプションは、権利行使価額を低く設定(例えば1円。なお0円も可能。)することで、権利行使時の株価がほとんど報酬となるようにしたストックオプションです。
    もちろん株式報酬型は税制非適格扱いなので課税は2回されますが、株価の上昇次第では大きなキャピタルゲインを得られます。
    株式報酬型ストックオプションをいつ付与するかというと、たとえば会社の業績が悪化しているときなどです。
    そうすれば役員報酬を変えず、その一部をストックオプションにできるので、会社のお金を使わず役員のモチベーションを維持できます。
    また逆に会社業績が悪化してないのなら、従業員同様、税制適格ストックオプションを付与して業務執行を鼓舞することもできます。
  3. 社外高度人材
    社外高度人材も税制適格ストックオプションを付与する対象としては適切です。
    法改正で付与対象範囲が社外高度人材にも拡大されたため、社内人材同様、税制適格ストックオプションを付与する活用が可能になりました。
    ただし社外高度人材の定義には一定の制限があるため、付与対象者が限られることや、要件が厳しいのがネックで、活用されている事例はあまり多くありません。

8. おわりに

税制適格ストックオプションについて、その概要や税制適格となる要件、利用上のメリット・デメリット、付与対象者など詳しく解説しました。
次回は税制非適格ストックオプションについて解説します。