税制非適格ストックオプションとは
目次
- はじめに
- 税制非適格ストックオプションとは
- ストックオプションの種類と税制非適格ストックオプションの位置づけ
- 税制非適格ストックオプションと税制適格ストックオプションの主な違い
- 税制非適格ストックオプションのメリット・デメリット
- 【メリット】
- 【デメリット】
- 税制非適格ストックオプションはどんな方に付与すべき?
- おわりに
1. はじめに
税制非適格ストックオプションとは、税制優遇措置が設定されていないストックオプションのことです。
税制適格ストックオプション同様、税制非適格ストックオプションも役員・従業員の労働や業務執行に対するインセンティブ報酬として機能するストックオプション種類のひとつになります。
本記事では、税制非適格ストックオプションについて、その概要や税制非適格ストックオプションを付与する場合のメリット・デメリット、適切な付与対象者など詳しく解説します。
なお、全般的なストックオプションの概要とその種類及び税制適格ストックオプションについては、以下の記事を参考にして下さい。
「ストックオプションの概要とその種類とは」
「税制適格ストックオプションとは」
税制適格ストックオプション同様、税制非適格ストックオプションも役員・従業員の労働や業務執行に対するインセンティブ報酬として機能するストックオプション種類のひとつになります。
本記事では、税制非適格ストックオプションについて、その概要や税制非適格ストックオプションを付与する場合のメリット・デメリット、適切な付与対象者など詳しく解説します。
なお、全般的なストックオプションの概要とその種類及び税制適格ストックオプションについては、以下の記事を参考にして下さい。
「ストックオプションの概要とその種類とは」
「税制適格ストックオプションとは」
2. 税制非適格ストックオプションとは
税制非適格ストックオプションとは、付与が無償のタイプのうち、税制適格ストックオプション(※)のような厳しい要件は満たす必要がない代わりに、権利行使時に付与者に権利行使時の株価と権利行使価額との差額に給与所得課税(最大55%)がされてしまうタイプをいいます。
なお、付与者の株式売却時の課税は譲渡所得(所得税+住民税で約20%)となります。(売却時の株価と権利行使時の株価との差額に税金が課されることとなる)
(※)税制適格タイプとは以下のような要件(No.1~6)をすべて満たしたストックオプションの種類をいいます。
なお、付与者の株式売却時の課税は譲渡所得(所得税+住民税で約20%)となります。(売却時の株価と権利行使時の株価との差額に税金が課されることとなる)
(※)税制適格タイプとは以下のような要件(No.1~6)をすべて満たしたストックオプションの種類をいいます。
- 付与対象者の範囲
- 発行形態
- 年間行使限度額
- 権利行使価額
- 権利行使期間
- 保管委託
なお税制適格の要件詳細に関しては、別記事「税制適格ストックオプションとは」をご参照下さい
3. ストックオプションの種類と税制非適格ストックオプションの位置づけ
ストックオプションの種類には、まず権利取得時に金銭の払込を要するかにより、ストックオプションの権利を無償でもらえるタイプと、役員・従業員が一定の金額を会社に払って有償でもらえるタイプがあります。
さらに無償ストックオプションには、税制優遇措置の有無により、税制適格タイプと税制非適格タイプの2種類があります。
4. 税制非適格ストックオプションと税制適格ストックオプションの主な違い
税制適格ストックオプションと税制非適格ストックオプションの違いを説明します。
上の図は、各々(税制適格と税制非適格)のストックオプションの権利を所持していた方が、権利を行使して株式を受領する時点、株式保有後の一定期間内に株式を売却した時点での課税関係を示しています。
税制適格ストックオプションの権利を所持していた方は、権利行使時には税金はかからず、売却時に「1回だけ」税金がかかります。
さらにその税金は給与所得課税(最大55%)でなく、税率で優遇されている譲渡所得課税(約20%)が適用されるのかポイントです。
一方税制非適格ストックオプションの権利を所持していた方は、権利行使時にまず権利行使時の株価と権利行使価額の差額に最大で55%の税率が適用される給与所得課税がなされ、売却時にも実現利益(株式売却時の株価と権利行使時の株価の差額)に対して譲渡所得課税(約20%)されます。
つまり課税を「2回」され、権利行使時の税率が譲渡所得課税より高い給与所得課税となるのが税制非適格ストックオプションです。
税制適格タイプと税制非適格タイプにはこのような違いがあります。
5. 税制非適格ストックオプションのメリット・デメリット
税制非適格ストックオプションのメリット・デメリットは以下の通りです。
5.1 【メリット】
- 権利行使期間に制限がない
税制適格ストックオプションの場合、租税特別措置法第29条の2第1項1号(※)において権利行使期間が定められており、ストックオプションの付与決議から2~10年後の8年間のみ、行使可能と規定されています。
これの意味するところは、①ストックオプションの付与が決定されてから10年以内に権利行使しなければならない②付与されても2年間は権利行使できないということです。
一方で税制非適格ストックオプションの場合、上記のような権利行使期間に制限がないので、期間を意識することなく、付与された者がしたいタイミングで権利行使できます。
これの意味するところは、①ストックオプションの付与が決定されてから10年以内に権利行使しなければならない②付与されても2年間は権利行使できないということです。
一方で税制非適格ストックオプションの場合、上記のような権利行使期間に制限がないので、期間を意識することなく、付与された者がしたいタイミングで権利行使できます。
- 付与される本人以外の他人へ譲渡ができる
税制適格ストックオプションでは、同じく租税特別措置法第29条の2第1項4号(※)の規程で他人への譲渡が禁止されています。
たとえ付与者の配偶者や親族でも譲渡できません。
しかし税制非適格ストックオプションは原則他人への譲渡ができるので、一般的株式同様、配偶者や兄弟等の親族でも譲渡可能です。
たとえ付与者の配偶者や親族でも譲渡できません。
しかし税制非適格ストックオプションは原則他人への譲渡ができるので、一般的株式同様、配偶者や兄弟等の親族でも譲渡可能です。
- 権利行使限度額がない
税制非適格ストックオプションの場合、税制適格タイプのような権利行使限度額がありません。
税制適格ストックオプションは、租税特別措置法第29条の2第1項2号(※1)の規程で年間行使限度額の合計が1,200万円以下に制限されており、仮に1,200万円を超えた場合、超過分だけが要件から外れるのでなく、権利行使価額全額が課税対象になってしまいます。
さらに悪いことに、税制適格タイプでは、1度でもこの要件を外すと、以降の年間行使価額にかかわらず、税制適格の対象でなくなるので注意が必要です。
一方税制非適格ストックオプションの場合、最初から権利行使限度額がないため、税制適格タイプのような余分の心配をする必要がありません。
(※1)参照先: E-GOV法令検索 租税特別法
税制適格ストックオプションは、租税特別措置法第29条の2第1項2号(※1)の規程で年間行使限度額の合計が1,200万円以下に制限されており、仮に1,200万円を超えた場合、超過分だけが要件から外れるのでなく、権利行使価額全額が課税対象になってしまいます。
さらに悪いことに、税制適格タイプでは、1度でもこの要件を外すと、以降の年間行使価額にかかわらず、税制適格の対象でなくなるので注意が必要です。
一方税制非適格ストックオプションの場合、最初から権利行使限度額がないため、税制適格タイプのような余分の心配をする必要がありません。
(※1)参照先: E-GOV法令検索 租税特別法
5.2 【デメリット】
- 課税が2回ある
税制非適格ストックオプションのデメリットは課税機会が2回あることです。
1回目は、ストックオプションの権利を行使して株式に変える際、給与所得として課税されます(最大55%)。
2回目は株式を売却してお金に換える際、譲渡所得として課税されます。(約20%)
税制適格ストックオプションでは、株式を売却してお金に換える際、譲渡所得として課税(約20%)される1回のみなので、課税機会が2回あることはデメリットになります。
1回目は、ストックオプションの権利を行使して株式に変える際、給与所得として課税されます(最大55%)。
2回目は株式を売却してお金に換える際、譲渡所得として課税されます。(約20%)
税制適格ストックオプションでは、株式を売却してお金に換える際、譲渡所得として課税(約20%)される1回のみなので、課税機会が2回あることはデメリットになります。
- 株式を現金化できていない時点で課税され、かつ、税率が高い
税制非適格ストックオプションは株式売却時よりも前の権利行使時に課税がされることから、株式を売却して現金化できていない状況であっても、権利行使時の株価と権利行使価額の差額である含み益に対して、キャッシュインがないにも関わらず課税がされます。
そのため、その含み益に係る納税を行う時までに手元に納税資金が用意できていないと、借金をして納税資金を用意する必要が生じます。
また、税率が高いのもデメリットです。
税制適格ストックオプションの場合、株式売却時に譲渡所得として一律20%で課税されます。
しかし税制非適格ストックオプションの場合は、ストックオプションを付与時に給与所得課税として最大55%、株式売却時に譲渡所得課税として約20%税金を支払う必要があり、特に給与所得課税の際には最大で給与所得の半分以上を税金で持っていかれることから、大きなデメリットになっています。
そのため、その含み益に係る納税を行う時までに手元に納税資金が用意できていないと、借金をして納税資金を用意する必要が生じます。
また、税率が高いのもデメリットです。
税制適格ストックオプションの場合、株式売却時に譲渡所得として一律20%で課税されます。
しかし税制非適格ストックオプションの場合は、ストックオプションを付与時に給与所得課税として最大55%、株式売却時に譲渡所得課税として約20%税金を支払う必要があり、特に給与所得課税の際には最大で給与所得の半分以上を税金で持っていかれることから、大きなデメリットになっています。
6. 税制非適格ストックオプションはどんな方に付与すべき?
- 役員/役員報酬の代替
税制非適格ストックオプションは役員報酬の代替として付与が可能です。
税制非適格ストックオプションは、「株式報酬型ストックオプション」とも呼ばれ、権利行使価額を低く設定(たとえば1円、または0円と設定)することで、権利行使時の株価との差がほとんどか全額、報酬となるようにしたストックオプションです。
株式報酬型は税制非適格扱いなので課税は2回されますが、株価の上昇次第では大きなキャピタルゲインを得られます。
またいつ株式報酬型ストックオプションを役員に付与するかというと、たとえば会社の業績が悪化し株価が下落しているときなどです。
そうすれば役員報酬を変えずにその一部をストックオプションにできるので、会社のお金を使わず役員のモチベーションを維持できます。
いわば税制非適格ストックオプションを役員に一部付与することで、役員報酬の代替ができるのです。 - 退職する役員/役員退職慰労金の代替
税制非適格ストックオプションは退職する役員に対する「役員退職慰労金」の代替として用いることが可能です。
会社の業績に貢献した役員が退任する際、会社は株主総会の決議を経て役員退職慰労金を金銭で支払う場合がありますが、この役員退職慰労金を退任時に金銭ではなく株式で支給するものとして利用することができます。
そして役員退職慰労金の代替としてストックオプションを付与する場合には、上記項目1で解説した株式報酬型ストックオプションが最も適しています。
その際、権利行使価額を1円と設定して付与すれば、株式を無償で与えているのと同様な効果があるので(権利行使価額を0円とすることも可能。)、その後の株価の上昇によっては大きなキャピタルゲインが期待できます。
また、株価の上下に係わらず支給される役員退職慰労金に対して、株式報酬型ストックオプションであれば株価の上下により得られる報酬が変わるので、株価の上下で得られるキャピタルゲインが変わる株主と同じ目線で、在任時に株価を上昇させようとするインセンティブが働きます。
ただし株式報酬型ストックオプションは、税制適格の要件を満たしていないので課税はされるものの、一定の要件や状況のもとにおいては給与所得ではなく退職所得として課税され、また、退職所得に係る課税は税務上かなり優遇(※2)されているので、通常の給与所得に対する課税に比べ退任する役員の税金負担を安く抑えられます。
(※2)参照先:1円ストックオプションを退職時に権利行使した場合、退職所得控除が適用され、勤続年数に応じた控除や勤続年数によっては1/2計算が適用されます。ただし退職後長期間経過後に権利行使した場合の株式値上がり等、主として職務執行に関連していないと税務署に認識された場合、課税は雑所得扱いとなるので注意が必要です。
国税庁 退職金を受け取ったとき(退職所得)
権利行使期間が退職から10日間に限定されている新株予約権の権利行使益に係る所得区分について|東京国税局 (nta.go.jp)
7. おわりに
税制非適格ストックオプションについて、その概要や税制非適格ストックオプションを付与する場合のメリット・デメリット、適切な付与対象者など詳しく解説しました。
次回記事では有償ストックオプションについて詳しく解説します。
次回記事では有償ストックオプションについて詳しく解説します。