有償ストックオプションとは

目次

  1. はじめに
  2. 有償ストックオプションとは
  3. ストックオプションの種類と有償ストックオプションの位置づけ
  4. 税制適格・税制非適格ストックオプションと有償ストックオプションの主な違い
  5. 有償ストックオプションのメリット・デメリット
    1. 【メリット】
    2. 【デメリット】
  6. 有償ストックオプションはどんな方に付与すべき?
  7. おわりに

1. はじめに

有償ストックオプションは役員・従業員などに対して新株予約権を時価で発行し、役員・従業員がその時価相当額の金銭を払い込んで権利を取得するものをいいます。
ストックオプションは付与時、無償であるケースが多いのですが、有償ストックオプションの場合には付与時における新株予約権の時価相当の支払が必要です。
本記事では有償ストックオプションについて、その概要や無償ストックオプションとの違い、メリット・デメリット、適切な付与対象者など、詳しく解説します。
なお、全般的なストックオプションの概要とその種類、税制適格ストックオプション及び税制非適格ストックオプションについては、以下の各記事を参考にして下さい。
「ストックオプションの概要とその種類とは」
「税制適格ストックオプションとは」
「税制非適格ストックオプションとは」

2. 有償ストックオプションとは

有償ストックオプションとは、無償タイプと異なり、付与の際に役員・従業員が会社の設定した新株予約権の発行価額に基づき、自分のお金を払って新株予約権の権利を取得するタイプのストックオプションをいいます。
無償ストックオプションが「労働の対価」とみなされるのと違い、有償ストックオプションは付与者が最初にお金を払い込んで権利を購入しているので、税務上の金融商品「有価証券」として取扱いされています。
そのため、税制非適格ストックオプションと比べ、課税される回数が少ない、課税される税率が低くなる(但し、給与所得の水準によっては譲渡所得課税の方が高くなるケースもありうる)などのメリットがあります。

下図は有償ストックオプションの付与(対価支払)から権利行使、株式売却までのプロセスを一覧で示したものです。
図1 ※当社作成

3. ストックオプションの種類と有償ストックオプションの位置づけ

図2 ※当社作成


ストックオプションの種類には、まず権利取得に金銭の払込を要するかにより、ストックオプションの権利を無償でもらえるタイプと、役員・従業員が一定の金額を会社に払って獲得する有償タイプがあります。
さらに無償ストックオプションには、税制優遇措置の有無により、税制適格タイプと税制非適格タイプの2種類があります。
上記のような位置づけから、有償ストックオプションは、無償ストックオプションとの比較で説明されることが多いです。

4. 税制適格・税制非適格ストックオプションと有償ストックオプションの主な違い

図3 ※当社作成

税制適格・税制非適格ストックオプションと有償ストックオプションの違いを説明します。(図ではストックオプションをSOで表記しています)
上図は、各々無償(税制適格・税制非適格)と有償のストックオプション付与対象者が、ストックオプションを付与されるとき、権利を行使して株式を受領するとき(行使時)、株式保有後の一定期間で株式を売却したときでの課税関係を示したものです。
税制適格ストックオプションの権利を付与された方は、権利行使時には税金はかからず、売却時に1回だけ税金がかかります。
さらにその税金は給与所得課税(最大55%)でなく、税率で優遇されている譲渡所得課税(約20%)が適用されます。
税制非適格ストックオプションの権利を付与された方は、権利行使時にまず権利行使時の株価と権利行使価額の差額に最大で55%の税率が適用される給与所得課税がなされ、売却時にも実現利益(株式売却時の株価と権利行使時の株価の差額)に対して譲渡所得課税(約20%)されます。
つまり税制非適格ストックオプションは課税を2回されるのです。
次に有償ストックオプションの権利を付与された方ですが、税制適格ストックオプション同様、権利行使時には税金はかからず、売却時に売却時の株価と株式簿価(新株予約権の時価+権利行使価額)の差額に譲渡所得課税として1回だけ税金がかかります。(約20%)
その理由は、有償ストックオプションは付与された際、役員・従業員が会社の設定した新株予約権の発行価額に基づき、自分のお金を払って権利を取得するからです。
有償ストックオプションは、付与者が最初にお金を払い込んで権利を購入しているので、税務上も金融商品「有価証券」として取扱いされ、売却時に譲渡所得課税が適用されるのです。

5. 有償ストックオプションのメリット・デメリット

有償ストックオプションのメリット・デメリットは以下の通りです。

5.1 【メリット】

  • 税制上のメリットが受けられる
有償ストックオプションの場合、労働の対価と見なされる無償ストックオプションと異なり、当初から役員・従業員は対価を払ってオプションを購入しているので税務上「有価証券」を買ったと見なされます。
そのため、売却時に利益に対して譲渡所得課税(約20%)のみ課されるので、税制非適格ストックオプションと比べても税金負担が少ないです。
  • 役員報酬決議が不要なため、付与に関する手続きが機動的に進められる
有償ストックオプションは、その仕組み上、報酬と見なされていません(但し、会計上は報酬として扱われる場合があります)。
したがって有償ストックオプションを役員に割当しても、会社法上、株主総会での役員報酬決議を取る必要がないものと考えられます。
この理由から、上場企業で有償ストックオプションを役員に対して付与する場合、取締役会決議のみで発行できるものと考えられ、機動的に手続きが進められます。
ただし未上場会社の場合は手続きが異なり、必ず株主総会を開催して発行決議を取らねばなりません。
  • 税制適格要件のような制約なく、ストックオプションとしての設計が自由
有償ストックオプションは、税制非適格ストックオプション同様、税制適格要件を満たす必要がないので、会社がストックオプションを設計する際に自由に内容が決められます。
厳しい制限がない分、会社が付与対象者ごとに、様々な条件(※)を付したストックオプションを設計して活用できるのはメリットです。
(※)業績条件達成型SO、株価条件達成型SOなど
  • 有償が理由で従業員のモチベーションが上がる
無償ストックオプションはただで権利が付与されます。
そのため付与された従業員の中には、もらったありがたみが実感できず、会社が期待するようなインセンティブ効果も発揮できない場合があります。
しかし有償ストックオプションの場合、申込みの際、従業員が自分でまとまった資金を払込みして権利を購入する必要があります。
すると「お金を払って購入したので株価が上がるよう頑張らないと」という強い動機も効いて、継続して会社で働き意欲的に業績向上に貢献してくれるようになります。
  • 社外の協力者へも付与ができる
会社が社外の協力者にストックオプションを付与したいと考えたとき、税制適格ストックオプションだとその要件から付与対象者の範囲に制限がかかります。(一定の要件を満たした社外高度人材のみ)
一方有償ストックオプションを社外の協力者に付与すれば、人的要件に制限なく、社外高度人材以外にも権利を付与できるので、業務委託先の社外協力者や、会社が目を付けた優秀な外部人材に対して採用時の有効ツールとして使えます。

5.2 【デメリット】

  • 有償のため、引受人が資金負担する必要がある
有償ストックオプションは、まさにその名の通り、権利獲得のため金銭の払込みが必要です。
しかしまとまったお金を用意できる従業員には限りがあり付与先が限定されてしまいます。
会社として有償ストックオプションを付与したくても、従業員側の個人的理由で付与を拒否されてしまうリスクがあります。
  • 強制行使条件に抵触すると行使を強制されてしまう
    図4 ※当社作成

有償ストックオプションを会社が対象者に付与する場合、「下限強制行使条件」をつけることがあります。
「下限強制行使条件」とは、「権利行使期間中、株価が一定水準まで下落したときには権利行使が強制される」という条項です。
また実務的には強制行使条件の株価は付与時の30%~50%程度が一般的です。
付与される側に取って「強制行使条件」条項付きの有償ストックオプションは、株価下落時に強制的に権利行使させられ、市場で売却すれば損失が発生するので、本来なら条件が付いていない有償ストックオプションを手に入れたいでしょう。
一方で強制行使条件付き有償ストックオプションは、強制行使条件が付くことでストックオプションの評価も下がるので、資金の少ない買い手にとって買いやすくなるメリットもあります。
  • タイミングがずれて入社した役員・従業員に均等に有償ストックオプションが付与できない
安定した大会社は別として、スタートアップやベンチャー企業等の会社に入社を決める役員・従業員のタイミングはバラバラです。会社が採用ツールのひとつに有償ストックオプションを持っていても、入社する役職員のタイミングがバラバラだと、その都度新たに発行手続きが必要であり、かつその時点で株価に相違があると、権利行使価額に差ができて役職員間で不公平感が生じてしまいます。
ある意味、これも有償ストックオプションの持つデメリットといえます。

6. 有償ストックオプションはどんな方に付与すべき?


  • 創業者
有償ストックオプションを付与する対象者としては会社の創業者がベストです。
創業者が株価の低い上場前等にストックオプションの付与を受けて、上場し一定期間が経過した後に株価が上昇したタイミングで権利行使を行って株式を取得、その後の一定期間で株式を売却すれば大きなキャピタルゲインが得られます。
また上場申請前にストックオプションを行使して、創業者の持分比率を改善したり、上場時にその株式を売り出すことも可能です。
ただしストックオプションの場合、創業者は税制適格要件を満たせていることは少ないので税制適格ストックオプションは使えないことが多く、また税制非適格ストックオプションを付与されていても、権利行使時と売却時に2回課税されてしまうので、こちらも創業者の税金負担は大きくなります。
しかし有償ストックオプションが創業者に付与されていれば、税務上、ストックオプションが有価証券として取り扱われるので、課税は株式売却時の1回のみ(譲渡所得課税として約20%)となり有利です。

7. おわりに

有償ストックオプションについて、その概要や無償ストックオプションとの違い、メリット・デメリット、付与対象者など、詳しく解説しました。
有償ストックオプションについては、無償ストックオプションとは違った特性があります。
そのため公認会計士・税理士等専門家の助言も受けつつ、会社として有償ストックオプションのメリット・デメリットを十分理解して、付与対象者ごとに適切なストックオプションを設計して付与していく必要があります。