金銭報酬制度の概要(前編)

目次

  1. はじめに
  2. 金銭報酬制度とは
  3. 金銭報酬の主な支給対象は従業員と役員
  4. 従業員に対する金銭報酬の支給目的
    1. 目的①モチベーション向上
    2. 目的②人材確保と定着化
    3. 目的③人件費の適正化
  5. 金銭報酬の種類
    1. 種類①賃金(基本給、能力給、職務給)
    2. 種類②賞与(ボーナス)
    3. 種類③退職金
  6. 従業員に対する金銭報酬制度の設計方法
    1. 手順①現状把握
    2. 手順②評価制度と整合性を確認
    3. 手順③金銭報酬体系の設計
    4. 手順④基本給の設定
    5. 手順⑤報酬テーブル及び賞与テーブルの設定
  7. 従業員に対する金銭報酬の運営方法や注意点
    1. 企業風土や実情に合った金銭報酬制度を取り入れる
    2. 必ず評価制度と連動させて運用する
    3. 支給対象となる従業員全員に金銭報酬制度を納得させておく
    4. 賞与や退職金も金銭報酬であり効果的なタイミングで支給する
    5. 社会保険労務士の意見も取り入れて法律にも則した報酬制度を構築する
  8. おわりに

1. はじめに

金銭報酬制度は、会社が自社業績の向上や発展に寄与した従業員・役員に対して、金銭を支給してその貢献を評価や鼓舞する制度です。
また金銭報酬制度のもと、支給する金銭の種類も多岐にわたり、対象となる従業員・役員によって様々な支給ルールがあります。
そこで本記事では、金銭報酬制度に関して、その概要を前編・中編・後編の3回に分けて詳しく解説します。
まずは本記事(前編)では、金銭報酬制度のうち、支給対象を従業員に絞り、金銭報酬の支給目的と種類、設計方法、運用方法や注意点など、詳しく解説します。

2. 金銭報酬制度とは

報酬制度とは、会社の役員または従業員に対し、仕事の成果や貢献度に応じて、対象者に支払う報酬を決めるためのルールです。
また報酬の種類には、報酬を金銭で与える金銭報酬、株式で与える株式報酬、表彰や休暇等お金の形でない非金銭報酬などあります。
そこでこの記事で解説する「金銭報酬制度」とは、報酬を「金銭」で与える報酬制度のことを指し、仕事上で成果を上げ、会社業績に貢献した人に対して、報酬として金銭を与えるルールになります。

3. 金銭報酬の主な支給対象は従業員と役員

金銭報酬制度に基づき、報酬として金銭を得られる対象は会社の従業員や役員です。
金銭報酬制度のもと、従業員に対しては給与や賞与、退職者に対しては退職金が支払われ、役員に対しては、役員報酬や役員賞与、退職役員には役員退職慰労金等が支払われます。
また近年は業績に大きく貢献した従業員・役員に対して、中長期的視点から、株式の仕組みを活用したSOやファントムストック・SARなどを金銭報酬として支給する流れも見られます。

4. 従業員に対する金銭報酬の支給目的

本章では、従業員に対してなぜ金銭を支給するのか、その主な目的を3つ紹介します。

4-1. 目的①モチベーション向上

目的の1つ目は、従業員の働くモチベーションを引き上げることです。
会社で働く従業員にとって給与規定等で文書化された金銭報酬制度があれば、自分がどう働けば給与が上がるか、明確になるのでモチベーションアップにつながります。
一方報酬制度がない会社では、従業員が自分の給料が上がる仕組みも把握できないので、今以上に頑張って働こうという気持ちが起きにくいです。

4-2. 目的②人材確保と定着化

目的の2つ目として、金銭報酬制度があれば、会社として人材が確保しやすくなり、定着化も図れます。
求人の際、社外に提示できる金銭報酬制度の有無で新規採用に大きな差が生まれることでしょう。
金銭報酬制度を社外に明示できる企業の方が透明性の観点からも良い人材を確保できる可能性が高いし、入社してくる従業員も報酬制度をもとに自分の将来設計を予測しやすくなるので人材の定着率が高まります。

4-3. 目的③人件費の適正化

目的の3つ目として、金銭報酬制度を社内に構築することで、人件費の適正化を図る点があります。
年齢給や勤続加算給など、伝統的な金銭報酬制度を採用している会社では、経営環境の変化や新しい技術について行けず、「年齢だけは高い」「ただ勤務年数が長い」というだけの従業員に対して高額な報酬が支給されているという実態が多々あります。
しかし会社も事業で企業利益を実現させる組織だけに、業績に寄与できない高給の社員をいつまでも抱えているわけにもいきません。
そこで金銭報酬制度を時代に沿って再構築することで「会社の利益実現にとって有能な人材には高い報酬を支払う」という方針の実現が可能になります。
金銭報酬制度を再構築することで、それまで不要に払っていた人件費を削減でき、あらたに生産性の高い人材に仕事に見合った金銭の支給ができて、その結果、人件費の有効活用や適正化が図れるようになるのです。

5. 金銭報酬の種類

従業員が受け取れる金銭報酬の種類は主に以下の3つです。

5-1. 種類①賃金(基本給、能力給、職務給)

金銭報酬の種類の1つ目は、賃金です。
給与とも呼ばれています。
そのうち基本給は従業員に対して年間を通じて固定的に支給される給与をいいます。
基本給では、一般的に「給与グレード(等級)」とグレードに対応した給与範囲が設定されています。
給与グレードにおいてはその設定数がポイントで、少なすぎると給与面でメリハリがなくなり従業員の労働意欲に影響してくるので、設定数に関しては各々会社の実情に合ったものにしていく必要があります。
また給与の設定では、基本給に加えて、業務遂行に必要とされる知識やスキル等の有無をベースとした能力給、あるいは業務の内容に応じて給与が決まる職務給もあります。
基本給は単独で運用するのでなく、能力給や職務給もミックスして運用されることが一般的です。
また給与の変形として手当があり、支給の目的に応じて、通勤手当、住宅手当、休日労働手当、残業手当など様々で、定例給与に上乗せされて支給されます。

5-2. 種類②賞与(ボーナス)

金銭報酬の種類の2つ目は、賞与です。
ボーナスとも表記されます。
賞与(ボーナス)は、賃金(給与)のように毎月支払が法的に義務付けられているものでなく、不定期に会社が支払うタイプの金銭報酬です。
日本の主な会社では、夏と冬の2回、定期的に賞与支給することが一般的ですが、実際は支払時期も回数も固定的なものでありません。
会社の実情に応じて好きな時期に支給したり、回数を増やすことも、逆に業績が悪ければ支給しないこともできたりします。
また賞与の額を算定するときには、従業員各自が支給されている基本給(含む能力給・職務給)をベースに支給金額の1~4ヶ月分等と算定することが多いです。

5-3. 種類③退職金

金銭報酬の種類の3つ目は、退職金です。
退職金とは、従業員が退職する際、支給する金銭報酬のことで、会社が決めた退職金規程に基づき、従業員のこれまでの働きや退職時の職位等をベースに一括または分割(一部年金原資となる)で支給します。
もちろん退職金制度の導入は法律で定められたものでなく、支給の有無・金額等は企業によって異なります。
また退職金の呼び名も様々で、「退職手当」「退職慰労金」、さらに退職金の一部が形を変えて退職後、定期的に支給される「退職年金」となることもあります。

6. 従業員に対する金銭報酬制度の設計方法

本章では、金銭報酬制度を設計する際の方法(手順)について解説します。
設計手順として以下の手順①~⑤のやり方で進めていきます。

6-1. 手順①現状把握

手順①では、会社の金銭報酬制度について、現状どうなっているのか、課題や問題はないのか、制度を再定義してどんな会社をめざすのか、など多面的に把握検討します。

6-2. 手順②評価制度との整合性を確認

手順②では、会社の評価制度と金銭報酬制度がマッチしたものか、整合性にズレはないか、確認します。
例として上げると、現状、勤続年数が長い従業員が高い給与を得ているようになっている報酬制度の会社では、仮に有能な従業員が中途採用で入社してきても、勤続年数が短いという理由で高い報酬を得ることができません。
それでは優秀な社員の早期退職を招いてしまうので、会社としては評価制度と金銭報酬が完全にマッチした報酬制度に作り替える必要があります。

6-3. 手順③金銭報酬体系の設計

現状把握や整合性が確認できたら、手順③として金銭報酬体系の設計を行います。
会社業績に影響する従業員の成果を重視する会社なら、成果に対して報酬が上がるような金銭報酬体系が考えられるし、従業員の長期育成を念頭に勤務年数に応じて報酬が上がる仕組みを作るのも可能です。
一方外部に目を向けて、周辺地域や同業他社と比較して、自社の金銭報酬の適正水準を考えるのもひとつのやり方です。

6-4. 手順④基本給の設定

手順④では、基本給を設定します。
この段階での設定ポイントは基本給を「等級と連動させておく」という点です。
すなわち役割等級制度が取り入れられている企業においては、重要な役割等級の地位についている人ほど基本給も高くなります。
そうすれば、等級は従業員の能力評価の基礎となり、等級を基本給と連動させておけば、「あの等級にいるから彼は給与も高くて当然」と廻りからも見なされて、従業員間での不満も少なくなるでしょう。
また等級制度がうまく機能することで、優秀な従業員がさらに高い等級、ひいては高い給与をめざして働くというインセンティブにもつながります。

6-5. 手順⑤報酬テーブル及び賞与テーブルの設定

手順⑤では、報酬テーブル及び賞与テーブルを設定します。
報酬テーブルとは、基本給、能力給、職務給などの金額が決められて一覧になった表のことをいいます。
賞与テーブルも各々等級に沿って賞与額が決められた一覧表をさします。
報酬テーブルや賞与テーブルを会社がうまく活用することで、従業員の働きに対するインセンティブにもなるし、総額人件費の適正化にも利用できます。
ただし賞与テーブルは支給額を固定化してしまうと、会社の業績が落ちたときなどに支払面で会社の首を絞めてしまうので、できれば固定額にせず、等級別に一定幅を持たせた運用が望ましいです。

7. 従業員に対する金銭報酬の運営方法や注意点

本章では従業員に対する金銭報酬の運営方法や注意点について解説します。

7-1. 企業風土や実情に合った金銭報酬制度を取り入れる

金銭報酬制度は、その会社の企業風土、実情に適合した制度を取り入れることが必要です。
例えば中小企業で家族主義を標榜していたような企業が、突然能力や成果を重視した金銭報酬制度を取り入れたら従業員はどのように感じるでしょうか。
それまでアットホームな雰囲気で仕事ができていたのに急にギスギスした雰囲気となって、企業風土が変わってしまったと従業員が働く意欲をなくして退職してしまうリスクが出てきます。
経営者としても新しい金銭報酬制度を採用後の会社全体の影響も十分考慮して導入の検討を進めて下さい。

7-2. 必ず評価制度と連動させて運用する

経営者は、金銭報酬制度は必ず評価制度と連動させて運用するよう心がけて下さい。
金銭報酬制度と評価制度が連動していないと、「自分は会社から相応の評価を受けているはずなのになぜか給与が上がらない」「あの従業員は同僚から見て少しも仕事していないのになぜか給料が高い」という矛盾が生じてしまいます。
実態を放置すればこれもまた有能な従業員の退職理由になります。
評価制度と報酬制度をマッチさせ、「頑張って働き高い評価を受ければ必ず給与も上がる」という構造を社内に定着させる認識作りが大事です。

7-3. 支給対象となる従業員全員に金銭報酬制度を納得させておく

経営者が納得した金銭報酬制度を会社に導入すればそれで終わりではありません。
あらゆる機会を通じ、支給対象の従業員全員にあらたに導入した金銭報酬制度の概要を説明して納得させておく必要があります。
業績向上のため、会社の一員として働き、対価として給与等の金銭報酬を得るのは従業員本人です。
その本人が金銭報酬制度の中身を知らずに働いても報酬制度の導入は意味を持ちません。
導入した制度に納得して働いてもらってこそ報酬制度が効果を発揮します。
経営者含む会社幹部はその努力を怠るべきではないのです。

7-4. 賞与や退職金も金銭報酬であり効果的なタイミングで支給する

金銭報酬のうち、給与は毎月従業員に定期支給されるものであり、多く支給されるほどインセンティブとして働きます。
しかし賞与や退職金は、従業員によって支給額や支払タイミングが異なるので効果に違いがあります。
タイミングを図り適切な時期に支給すれば、労働インセンティブとしての効果は会社の期待以上になることも多々あります。
たとえば定期的に賞与を支給することに加え、業績向上を理由に臨時ボーナスを支給すれば、大いなるインセンティブ効果を社内に生んでくれることでしょう。

7-5. 社会保険労務士の意見も取り入れて法律にも則した報酬制度を構築する

社会保険労務士は、企業における労働社会保険、賃金や年金相談の専門家です。
会社で新しく金銭報酬制度を導入する際には、社会保険労務士の意見も取り入れ、会社風土や実情に見合った制度を取り入れる必要があります。
また、いくら優れた制度だと社内で自画自賛しても、制度が法律に抵触していれば意味がありません。
法律に準拠してかつ定期的に見直し可能な金銭報酬制度の導入が必要です。
そのためにも社会保険労務士との協力体制が重要になります。

8. おわりに

金銭報酬制度の概要(前編)として、支給対象に従業員を取り上げ、従業員と金銭報酬制度の関係、設定方法、運用方法や注意点など解説しました。
次回金銭報酬制度の概要(中編)では、支給対象として役員を取り上げ、役員と金銭報酬制度の関係、設定方法、運用方法や注意点など詳しく解説します。