金銭報酬制度の概要(中編)

目次

  1. はじめに
  2. 金銭報酬としての役員報酬とは?その支給目的とは?
  3. 役員に対する金銭報酬の種類
    1. ①役員報酬
    2. ②役員賞与
    3. ③役員退職慰労金
    4. ④その他(ファントムストック、SAR(ストック・アプリシェ―ション・ライト))
  4. 役員に対する金銭報酬の設計方法
    1. 損金算入可能な役員報酬の決め方3通り
      1. 定期同額給与
      2. 事前確定届出給与
      3. 業績連動給与
    2. 役員報酬の相場・適正水準の決め方
    3. 役員報酬は定款または株式総会の決議で決定する
  5. 役員に対する金銭報酬の運営方法や注意点
    1. 役員報酬は会社設立後または期首から3か月以内に決定する
    2. 役員報酬は高すぎると損金算入が認められないので注意
    3. 役員報酬は期中の変更が認められることもある
    4. 役員賞与は支給前に事前の届出が必要
    5. 役員退職慰労金を支給する場合、事前に株式総会での決議が必要
  6. おわりに

1. はじめに

金銭報酬制度は、会社が自社業績の向上や発展に寄与した従業員・役員に対して、金銭を支給して、その貢献を評価や鼓舞する制度です。
また金銭報酬制度のもと、支給する金銭類の種類も多岐にわたり、対象となる従業員・役員によって様々な支給ルールがあります。
前記事(前編)では、金銭報酬の支給対象者を従業員に絞り、その概要を解説しました。
そこで本記事(中編)では、前記事に続き、金銭報酬制度の概要について、支給対象者を役員に絞り、役員に対する金銭報酬の目的と種類、設計方法、運用方法や注意点など詳しく解説します。

2. 金銭報酬としての役員報酬とは?その支給目的は?

役員報酬とは、会社の役員に対して支払われる金銭報酬です。
会社法で定義されている役員には、取締役、執行役、監査役等があります。
さらに役員には、法人税法で定義されている役員のほかに、上記の法律の定義に当てはまらなくても、当該会社の経営に実質的に携わっている人(含む使用人)も役員に含まれています。
役員とは、会社の業務執行や監督を行う幹部なので、会社に雇用されている従業員とは一線を画す存在です。
そのため、役員は従業員給与でなく役員報酬を受け取っています。
役員に対して金銭報酬を支給する主な目的は、各々の仕事に対するモチベーションアップです。
従業員同様、役員も会社業績の向上に参画しているので、成果の達成具合に対して相応の報酬を受けるとともに、報酬額が高ければ高いほど役員のモチベーションもアップします。
さらに報酬の水準が高ければ高いほど、役員として相応の人材が確保でき、更なる業績の向上も期待できます。
一方、近年では、企業としても中長期的に企業価値を高められる役員人材をより強く求めるようになっており、固定型の役員報酬だけでなく、業績連動型のインセンティブ報酬を作る動きが広まっています。

3. 役員に対する金銭報酬の種類

役員が受け取る金銭報酬の種類は、主に以下の4種類です。
・役員報酬
・役員賞与
・役員退職慰労金
・その他(業績連動型のインセンティブ報酬)

3-1. ①役員報酬

役員報酬とは、取締役、執行役、監査役といった、会社経営において責任を有する役員に就いている方に支払う金銭報酬をいいます。
会社が定めた給与規定に沿って従業員に対して支払う賃金(給与)とは異なり、役員報酬は株主総会や定款で定めた限度額の枠内で毎月同じ額を支払います。
基本的に役員報酬はいったん決定されると、決定から1年間は報酬金額の変更ができないルールになっています。

3-2. ②役員賞与

役員賞与とは、企業の業績や役員個人の役割達成のパフォーマンスに応じて支払される金銭報酬です。
年1回の頻度で支払われることが多く、役員報酬とは別に計算され支給されます。
ただし役員賞与は、役員報酬のように定期的に支給することが約束されているものでなく、会社業績が悪くなって赤字になれば支給が停止されることもあります。
会社としては役員賞与を支給することで役員に対して経営努力を促すことが可能です。

3-3. ③役員退職慰労金

役員退職慰労金とは、取締役や監査役など、役員の地位にあった者に対して、彼らの退職時に支払われる金銭報酬です。
一般的な退職金は会社の退職金規程に基づき従業員が退職時に支給されるものですが、役員退職慰労金は同様な規程を作らないケースもあります。
一方で役員退職慰労金は、原則、株主総会において、その支給可否、金額、支給方法などを決議する必要があります。
ただし実務上は株主総会で取締役会一任等の決議がなされることが多く、役員退職慰労金の支給決議は取締役会で決定されているのが一般的です。

3-4. ④その他(ファントムストック、SAR(ストック・アプリシェーション・ライト))

役員に対する金銭報酬の種類には、固定型の役員報酬に加え、業績連動型のインセンティブ報酬があります。
具体的なインセンティブ報酬とはファントムストックやSARなどです。
なおこれら種類④については、金銭報酬制度の概要(後編)にて詳しく解説する予定です。

4. 役員に対する金銭報酬の設計方法

本章では役員に対する金銭報酬の設計方法について解説します。

4-1. 損金算入可能な役員報酬の決め方は3通り

法人税法に沿って損金算入が認められる役員報酬の決め方は、以下の3通りです。

4-1-1. 定期同額給与

役員報酬は原則、「定期同額給与」で支払うこととされています。
また定期同額給与は、事業開始年度から3カ月以内に役員報酬の額を決定して、年度中は毎月同じ額の給与を継続して支払続けます。
定期同額給与は、毎月一定額を支払続けることを条件として損金に算入することが可能なのです。

4-1-2. 事前確定届出給与

役員には従業員に対して支払うような賞与(ボーナス)はありません。
しかし賞与に似た形で役員に支払をする仕組みがあり、それが「事前確定届出給与」です。
事前に金額と支払日を決めて税務署に届けることで、役員に対して役員報酬として支払うことが可能になります。
もちろん、支払後には損金として認められます。

4-1-3. 業績連動給与

業績連動給与とは、国内法人がその事業年度の利益などの指標を基準にして支給できる役員報酬です。
ただし、業績連動給与として支給するためには、有価証券報告書にその算定方法を開示するなど一定の支給要件を満たす必要があります。
従って非上場の会社は一般的には支給要件を満たせないため業績連動給与を支給することは難しいです。

4-2. 役員報酬の相場・適正水準の決め方

役員報酬の設定では、会社の役員報酬をどの程度に決めるかという点も重要です。
役員報酬は会社業績や事業規模、支払う税金の額、競合他社とのバランス等にも配慮して決定する必要があります。
まずは統計資料から、資本金(事業規模)別に全国の企業が支払している役員報酬の相場がどの程度なのか、平均額を押えて決定する際の目安にしましょう。
資料1

出典:国税庁/2021年度民間給与実態統計調査結果

事業規模で見た役員報酬の相場が把握できたら、次は税金の額から見た検討が必要です。
会社には法人税や法人地方税、法人事業税等、多種多様な税金が課されます。
このような税金は、会社業績(会社の所得)に応じて決定されるため、役員報酬が高ければ高いほど経費として損金算入され、その結果利益が圧縮されて会社の負担する税金が軽くなるという関係があります。
一方で、役員側は、受け取る役員報酬の額が高いと、受け取る所得が増えるので個人として所得税や住民税が増えてしまいます。(同時に社会保険料の負担額も上がります)
そのため、会社が役員報酬を決めるときには、会社と役員の間で納税額のバランスを取ることが重要になります。
さらに、競合他社の役員が受け取る報酬とのバランスも、決めるときの大切な検討材料です。
自社の役員報酬が他社比で過大に高い場合は会社負担が大きくなりますし、逆に低い場合には役員に不満が出たりモチベーションが下がったりします。
役員のモチベーションアップにつながり、かつ会社負担にならない程度のバランスの取り方が大事です。

4-3. 役員報酬は定款または株主総会の決議で決定する

役員報酬は会社法で「定款または株主総会の決議で定める」となっています。
そこで一般的な役員報酬額の設定方法を解説します。
手順1…まず株主総会で役員報酬の総額(枠)を決めます。
続けて各役員の報酬額は「取締役会または代表取締役に一任」を決議します。
手順2…株主総会後に取締役会を開き、手順1で決めた総額の枠内で役員ごとの報酬額を決定します。
※会社法に則り、株主総会や取締役会は決議事項について議事録を残す必要があります。

5. 役員に対する金銭報酬の運営方法や注意点

本章では役員に対する金銭報酬(役員報酬、役員賞与等)について、運営方法や注意点を解説します。

5-1. 役員報酬は会社設立後または期首から3ヶ月以内に決定する

役員報酬は会社設立後、または原則、期首から3ヶ月以内に決定する必要があります。
会社設立して、まだ売上見込みも立たないときに役員報酬を決めるのは難しいですが、それでも後に毎月支払う社会保険料や所得税・地方税の額にも大きく影響してくるので慎重な検討が必要です。
またすでに会社経営が軌道に乗っていて役員報酬を決める場合も、期首から3ヶ月以内に定める必要があります。
例えば、4月から翌年3月までの事業年度の会社なら、6月に株主総会を開いて役員報酬を決定します。
そうすれば条件を満たせるので全額損金算入が可能です。

5-2. 役員報酬は高すぎると損金算入が認められないので注意

高すぎる役員報酬は、たとえ損金算入の条件を満たしていても、税務署判断で一定範囲を超えた額について損金と認められないこともあるので注意して下さい。
役員報酬の額を決める際には、自社業績の推移や同業他社の役員報酬など参考に、合理的な金額を設定する必要があります。

5-3. 役員報酬は期中の変更が認められることもある

役員報酬は、期中の変更はできませんが、ケースによっては認められることもあるので知っておいて下さい。
会社の業績が期中で著しく悪化したときなどに、役員報酬の減額が認められる場合もあります。
業績悪化に併せて役員報酬を減額しないと株価が下がって株主や債権者に迷惑がかかるなど、合理的な理由があって、かつ客観的に業績悪化が認められるような場合には損金算入が認められることがあります。

5-4. 役員賞与は支給の前に事前の届出が必要

役員に対しては、従業員同様、金銭報酬として役員賞与が支給可能です。
ただし、役員賞与として支払する場合には、以下のルールに基づき事前に税務署への届出が必要となります。
・会社設立年度の場合…設立後2ヶ月以内
・翌事業年度以降…①事業年度開始または株主総会決議後、取締役会決議後4ヶ月以内
または、②役員賞与を決議した株主総会から1ヶ月以内

5-5. 役員退職慰労金を支給する場合、事前に株主総会での決議が必要

役員退職慰労金とは、当該役員が退職時、在任中の取締役執行の対価として給付される役員報酬のひとつです。
一方会社が役員退職慰労金を支給するには、定款への記載または株主総会の決議が必要とされています。
ただし、定款で役員退職慰労金を事前に定めておくことはまれであり、通常は株主総会の決議にて定めることになります。
また、通常の役員報酬同様、役員退職慰労金についても、株主総会では具体的な金額を開示せず、その決定を取締役会に一任する方法がよく採られています。

6. おわりに

金銭報酬制度の概要(中編)として、金銭報酬の支給対象者を役員に絞り、金銭報酬の目的と種類、設計方法、運用方法や注意点など、詳しく解説しました。
次回金銭報酬制度の概要(後編)においては、役員に対する金銭報酬のうち、インセンティブ報酬としてのファントムストックやSARなどを取り上げ、その目的や内容について詳しく解説します。