金銭報酬制度の概要(後編)
目次
- はじめに
- 金銭報酬として役員・従業員へファントムストックの支給
- ファントムストックとは
- ファントムストックのメリット・デメリット
- メリット①モチベーションの向上や退職防止(リテンション)に使える
- メリット②有能な役員・従業員が採用できる
- メリット③会社の持株比率に希薄化が起きない
- メリット④付与者の現金化に手間がかからない
- デメリット①多額のキャッシュアウトが発生するリスクがある
- ファントムストックの導入時の注意点
- 金銭報酬として役員・従業員へのSARの支給
- SAR(ストック・アプリシェ―ション・ライト)とは
- SARのメリット・デメリット
- メリット①株価の低下によるデメリットがない
- メリット②モチベーションアップにつながる
- メリット③株式の希薄化がほぼない
- デメリット①付与者の権利実行時に会社が多額の現金を必要とする
- SARの導入時の注意点
- おわりに
1. はじめに
金銭報酬制度は、会社が自社業績の向上や発展に寄与した役員・従業員に対して、金銭類を支給して、その貢献を評価や鼓舞する制度です。
また金銭報酬制度のもと、支給する金銭類の種類も多岐にわたり、対象となる役員・従業員によって様々な支給ルールがあります。
前記事(中編)では、金銭報酬の支給対象者を役員に絞り、その概要を解説しました。
またその中で金銭報酬の種類としてファントムストック・SAR(ストック・アプリシェーション・ライト)にも簡単に触れました。
そこで本記事(後編)ではファントムストック及びSARを取り上げます。
以下の章で各々の定義、メリット・デメリット、運用上の注意点など詳しく解説します。
また金銭報酬制度のもと、支給する金銭類の種類も多岐にわたり、対象となる役員・従業員によって様々な支給ルールがあります。
前記事(中編)では、金銭報酬の支給対象者を役員に絞り、その概要を解説しました。
またその中で金銭報酬の種類としてファントムストック・SAR(ストック・アプリシェーション・ライト)にも簡単に触れました。
そこで本記事(後編)ではファントムストック及びSARを取り上げます。
以下の章で各々の定義、メリット・デメリット、運用上の注意点など詳しく解説します。
2. 金銭報酬として役員・従業員へファントムストックの支給
2-1. ファントムストックとは
ファントムストックとは、役員・従業員に対する金銭報酬の種類のひとつです。
ファントムストックは報酬として実際の株式や株式の購入権利(SO)を付与するのでなく、会社が設定した仮想の株式を付与し、仮想の株価を基準にした業績連動型報酬を役員・従業員に対して現金の形で支給する制度です。(書類上では会社が付与対象者に自社株を与えたことにしています)
ファントムストックを付与された役員・従業員は、権利を付与された以降、一定期間が経過した後で権利を確定し売却して現金報酬を得たり、株主としての権利があるため配当金を受けたりすることができます。
付与者は、ファントムストックを発行した会社が権利を付与した時より株価の時価が上昇した分だけ、差額をプラスして報酬を現金で得られます。
そのため、ファントムストックは、役員・従業員に対するインセンティブとして様々な目的に活用可能なのです。
【ファントムストックのイメージ】
ファントムストックは報酬として実際の株式や株式の購入権利(SO)を付与するのでなく、会社が設定した仮想の株式を付与し、仮想の株価を基準にした業績連動型報酬を役員・従業員に対して現金の形で支給する制度です。(書類上では会社が付与対象者に自社株を与えたことにしています)
ファントムストックを付与された役員・従業員は、権利を付与された以降、一定期間が経過した後で権利を確定し売却して現金報酬を得たり、株主としての権利があるため配当金を受けたりすることができます。
付与者は、ファントムストックを発行した会社が権利を付与した時より株価の時価が上昇した分だけ、差額をプラスして報酬を現金で得られます。
そのため、ファントムストックは、役員・従業員に対するインセンティブとして様々な目的に活用可能なのです。
【ファントムストックのイメージ】
2-2. ファントムストックのメリット・デメリット
ファントムストックのメリット・デメリットは以下の通りです。
2-2-1. メリット①モチベーションの向上や退職防止(リテンション)に使える
ファントムストックは役員・従業員に付与することでモチベーションの向上に使えます。
これまで解説してきた給与や賞与等は、あくまで受給者が達成した短期的業績を評価して与える金銭報酬です。
一方、ファントムストックは、中長期的視点に立って業績に連動した経済的リターンを対象者に付与する金銭報酬なので、持続的なモチベーションの向上が期待できます。
また、ファントムストックは有能な役員・従業員に付与することで退職防止(リテンション)にも役立ちます。
ファントムストックは付与時に様々な行使条件を付けることが可能です。
行使条件に勤続年数を加味しておけば、役員・従業員が一定期間勤めないと権利確定できないので、早期の退職を防止できます。
これまで解説してきた給与や賞与等は、あくまで受給者が達成した短期的業績を評価して与える金銭報酬です。
一方、ファントムストックは、中長期的視点に立って業績に連動した経済的リターンを対象者に付与する金銭報酬なので、持続的なモチベーションの向上が期待できます。
また、ファントムストックは有能な役員・従業員に付与することで退職防止(リテンション)にも役立ちます。
ファントムストックは付与時に様々な行使条件を付けることが可能です。
行使条件に勤続年数を加味しておけば、役員・従業員が一定期間勤めないと権利確定できないので、早期の退職を防止できます。
2-2-2. メリット②有能な役員・従業員が採用できる
新規、あるいは中途で役員・従業員を採用する場合、対外的に会社がファントムストックを整備していることをアピールすると、有能な人材が確保できます。
ファントムストックは、中長期的視点から事業の成長に貢献した役員・従業員に対して、会社利益の一定割合を還元する金銭報酬制度です。
そのため、自分の能力や実績を会社に正当に評価してもらい、高い報酬を期待している人材には、ファントムストックは魅力的な報酬制度なので採用市場で有利に働きます。
ファントムストックは、中長期的視点から事業の成長に貢献した役員・従業員に対して、会社利益の一定割合を還元する金銭報酬制度です。
そのため、自分の能力や実績を会社に正当に評価してもらい、高い報酬を期待している人材には、ファントムストックは魅力的な報酬制度なので採用市場で有利に働きます。
2-2-3. メリット③会社の持株比率に希薄化が起きない
ファントムストックを役員・従業員に付与しても、会社の持株比率に変動なく希薄化も起きません。
発行企業にとって、ファントムストックはあくまで架空の株式を設定して対象者に付与するものです。
そのため会社の発行済み株式数に変動はないし、持株比率の希薄化もありません。
その結果、ファントムストックを発行しても、会社の議決権にも影響は少ないし、株価への影響もないです。
発行企業にとって、ファントムストックはあくまで架空の株式を設定して対象者に付与するものです。
そのため会社の発行済み株式数に変動はないし、持株比率の希薄化もありません。
その結果、ファントムストックを発行しても、会社の議決権にも影響は少ないし、株価への影響もないです。
2-2-4. メリット④付与者の現金化に手間がかからない
ファントムストックの付与者が得られるメリットに、現金化するのに手間がかからない点があります。
通常、役員・従業員が金銭報酬として将来株式を購入する権利(SO)を得たら、将来その権利を行使して得た株式を市場で売却して利益を確定する手続きが必要です。
しかし、ファントムストックは、最初に会社から仮想の株式を付与されるので、SOのような面倒な手続きがありません。
ファントムストックは、付与者にとって、SOより現金化する手間を省けるメリットがあるのです。
通常、役員・従業員が金銭報酬として将来株式を購入する権利(SO)を得たら、将来その権利を行使して得た株式を市場で売却して利益を確定する手続きが必要です。
しかし、ファントムストックは、最初に会社から仮想の株式を付与されるので、SOのような面倒な手続きがありません。
ファントムストックは、付与者にとって、SOより現金化する手間を省けるメリットがあるのです。
2-2-5. デメリット①多額のキャッシュアウトが発生するリスクがある
発行会社には、ファントムストックを発行したら、将来多額のキャッシュアウト(※)に見舞われるリスクが発生します。
(※)キャッシュアウトとは、商品の仕入れや設備投資、借入金返済などの企業活動により企業の現金が流出して減少すること。
ファントムストックには、付与対象者である役員・従業員が、将来権利を行使したら、その時点で会社は付与時の時価と権利行使時の時価の差を現金で支払しなければならないというルールがあります。
いわゆるキャッシュアウトです。
ところで、株価は経営環境の変化や会社の事業度合いで毎日変動します。
一方、会社にとって、株価は日々変動することから、ファントムストックの権利行使に伴う現金負担額を、事前にいくらいるか、きちんと見積もっておくことはかなり難しいです。
しかし、一度に多くの付与者がファントムストックを権利行使してしまったら、会社としてはルール上、多額の現金を用意しなければならず、運転資金まで影響を受ける可能性もあります。
したがって、会社としても、そのような金銭的リスクを少しでも下げるため、ファントムストックを設計する段階で、一人当りの支払額(キャピタルゲイン)に上限額を設けるなどの対応も必要になってきます。
(※)キャッシュアウトとは、商品の仕入れや設備投資、借入金返済などの企業活動により企業の現金が流出して減少すること。
ファントムストックには、付与対象者である役員・従業員が、将来権利を行使したら、その時点で会社は付与時の時価と権利行使時の時価の差を現金で支払しなければならないというルールがあります。
いわゆるキャッシュアウトです。
ところで、株価は経営環境の変化や会社の事業度合いで毎日変動します。
一方、会社にとって、株価は日々変動することから、ファントムストックの権利行使に伴う現金負担額を、事前にいくらいるか、きちんと見積もっておくことはかなり難しいです。
しかし、一度に多くの付与者がファントムストックを権利行使してしまったら、会社としてはルール上、多額の現金を用意しなければならず、運転資金まで影響を受ける可能性もあります。
したがって、会社としても、そのような金銭的リスクを少しでも下げるため、ファントムストックを設計する段階で、一人当りの支払額(キャピタルゲイン)に上限額を設けるなどの対応も必要になってきます。
2-2-6ファントムストックの導入時の注意点1-
ファントムストックは会社・付与対象者、どちらにとっても大変魅力的な金銭報酬の仕組みです。
しかし、SO等、他の業績連動型株式報酬制度と比べても、日本ではファントムストックはまだまだなじみの少ない報酬制度であることから、ファントムストックを企業に導入する際には、会社として役員・従業員に対して内容を十分説明して制度の理解を得ておくことが大切です。
具体的には、①付与対象者は、実際の株式を付与されるのでなく、あくまで架空の株式を付与されること②最終的な報酬は金銭の形で得られること③権利付与時の株価からの上昇が大きくなければ金銭的メリットは小さいこと、の3点をきちんと理解させておく必要があります。
しかし、SO等、他の業績連動型株式報酬制度と比べても、日本ではファントムストックはまだまだなじみの少ない報酬制度であることから、ファントムストックを企業に導入する際には、会社として役員・従業員に対して内容を十分説明して制度の理解を得ておくことが大切です。
具体的には、①付与対象者は、実際の株式を付与されるのでなく、あくまで架空の株式を付与されること②最終的な報酬は金銭の形で得られること③権利付与時の株価からの上昇が大きくなければ金銭的メリットは小さいこと、の3点をきちんと理解させておく必要があります。
3. 金銭報酬として役員・従業員へSARの支給
3-1. SAR(ストック・アプリシェーション・ライト)とは
SAR(ストック・アプリシェーション・ライト)は、ファントムストック同様、会社業績に連動して役員・従業員に対して金銭報酬が与えられる仕組みです。
会社が予め株価を設定しておいて、付与対象者の役員・従業員が権利を行使したときに、その時点の株価と設定された株価との差額を報酬として金銭で受け取れます。
ただし、株価が上がれば報酬は受け取れますが、逆に株価が下がった場合、付与者は報酬が受け取れないだけで減額されることはないという特徴を持っています。
ファントムストックとSARの違いは、SARが株価の値上がりした差額を報酬として受け取れるのに対して、ファントムストックでは株価相当分の報酬が得られるという点です。
また、ファントムストックでは付与者は株主配当が受けられますが、SARは仮想の株式も付与されてないので配当金は受けられません。
会社が予め株価を設定しておいて、付与対象者の役員・従業員が権利を行使したときに、その時点の株価と設定された株価との差額を報酬として金銭で受け取れます。
ただし、株価が上がれば報酬は受け取れますが、逆に株価が下がった場合、付与者は報酬が受け取れないだけで減額されることはないという特徴を持っています。
ファントムストックとSARの違いは、SARが株価の値上がりした差額を報酬として受け取れるのに対して、ファントムストックでは株価相当分の報酬が得られるという点です。
また、ファントムストックでは付与者は株主配当が受けられますが、SARは仮想の株式も付与されてないので配当金は受けられません。
3-2. SARのメリット・デメリット
SARのメリット・デメリットは以下の通りです。
3-2-1. メリット①株価の低下によるデメリットがない
SARの定義で説明したように、SARは予め設定した株価が上昇したときに当初の株価との差額を報酬として得られる仕組みです。
一方、株価が低下した際には、付与者は報酬が得られないだけで、資産の損失が発生することはありません。
これは、付与者にとってはメリットといえます。
一方、株価が低下した際には、付与者は報酬が得られないだけで、資産の損失が発生することはありません。
これは、付与者にとってはメリットといえます。
3-2-2. メリット②モチベーションアップにつながる
ファントムストック同様、SARを与えられた役員・従業員は、業績を上げて株価が上がったらより高い報酬が期待できるので、仕事に対するモチベーションアップにつながります。
会社としてもSARを労働に対するインセンティブとして活用できるのでこれはメリットです。
会社としてもSARを労働に対するインセンティブとして活用できるのでこれはメリットです。
3-2-3. メリット③株式の希薄化がほぼない
SARの設定では、会社は新たに株式を発行しません。
そのため、株式の希薄化は起こりにくく、既存株主が不利益を被ることもありません。
株式の希薄化を起こさず業績連動型報酬を設計できるのは会社にとって大きなメリットです。
そのため、株式の希薄化は起こりにくく、既存株主が不利益を被ることもありません。
株式の希薄化を起こさず業績連動型報酬を設計できるのは会社にとって大きなメリットです。
3-2-4. デメリット①付与者の権利実行時に会社が多額の現金を必要とする
SARでは、付与者が権利を確定させ報酬として受け取ろうとした際、会社は現金を用意せねばなりません。
しかし、一度に多数の付与者が権利を確定させると、会社は多額の現金を用意せねばならず、資金繰り等に影響する場合があります。
一方、会社の株価は日々変動しており、外部環境や社内の経営状況に強く影響を受け、会社としても予測困難です。
そのため、SARの支払資金を常にいくらぐらい準備しておくか、見積もりすることが難しく、その分多めに現金を用意しておかねばならず、財務面の負担が大きくなります。
しかし、一度に多数の付与者が権利を確定させると、会社は多額の現金を用意せねばならず、資金繰り等に影響する場合があります。
一方、会社の株価は日々変動しており、外部環境や社内の経営状況に強く影響を受け、会社としても予測困難です。
そのため、SARの支払資金を常にいくらぐらい準備しておくか、見積もりすることが難しく、その分多めに現金を用意しておかねばならず、財務面の負担が大きくなります。
3-3. SARの導入時の注意点
SARに関してですが、日本の会社においては本格的な導入事例がほとんどありません。
そのため、会社においても、他社の導入と運用実績を確認している段階で、これからの金銭報酬制度といえます。
SARを他社より早く導入するのが良いのか、他社の動きを見て採用すべきか、は各社判断であり今後の課題です。
しかし、企業にとって、SARも無視できない金銭報酬制度であり、今後、会社が業績連動型報酬の割合を高めていこうとするならば、重要な選択肢のひとつとなるでしょう。
そのため、会社においても、他社の導入と運用実績を確認している段階で、これからの金銭報酬制度といえます。
SARを他社より早く導入するのが良いのか、他社の動きを見て採用すべきか、は各社判断であり今後の課題です。
しかし、企業にとって、SARも無視できない金銭報酬制度であり、今後、会社が業績連動型報酬の割合を高めていこうとするならば、重要な選択肢のひとつとなるでしょう。
4. おわりに
金銭報酬制度の概要(後編)として、ファントムストック及びSARを取り上げ、概要やメリット・デメリット、注意点を詳しく解説しました。
金銭報酬として両者には様々なメリットがあり、これから業績連動型報酬の割合を社内で高めていこうとする会社にとっては重要な選択肢のひとつとなります。
一方で双方とも日本では発展途上の金融商品であることから、いまだ経理処理が一般的に明確にされていない面もあります。
今後、ファントムストックやSARを自社に導入しようと検討している企業は、会計や税務の専門家にも相談して、税務当局から指摘を受けにくい処理方法を考えていく必要があります。
ファントムストック及びSAR検討時には、必ず公認会計士・税理士等の専門家にアドバイスを受けるようおすすめします。
金銭報酬として両者には様々なメリットがあり、これから業績連動型報酬の割合を社内で高めていこうとする会社にとっては重要な選択肢のひとつとなります。
一方で双方とも日本では発展途上の金融商品であることから、いまだ経理処理が一般的に明確にされていない面もあります。
今後、ファントムストックやSARを自社に導入しようと検討している企業は、会計や税務の専門家にも相談して、税務当局から指摘を受けにくい処理方法を考えていく必要があります。
ファントムストック及びSAR検討時には、必ず公認会計士・税理士等の専門家にアドバイスを受けるようおすすめします。