株式報酬制度の概要(後編)

目次

  1. はじめに
  2. 株式報酬制度、種類ごとのメリット・デメリット
    1. SO(通常型)
    2. SO(株式報酬型)
    3. RS
    4. PS
    5. RSU
    6. PSU
    7. 株式交付信託
    8. ファントムテック
    9. SAR
  3. おわりに

1. はじめに

前回、株式報酬制度の概要(中編)では、株式報酬制度に係る各インセンティブスキームの概要や特徴を詳しく説明しました。
本記事(後編)では、引き続き、各インセンティブスキームの持つメリット・デメリットを他の報酬制度と比較しながら詳しく解説します。

2. 株式報酬制度、種類ごとのメリット・デメリット

2-1. SO(通常型)

株式報酬制度において、企業がインセンティブ報酬としてSO(通常型/税制適格ストックオプション)を導入する際、メリット・デメリットは発行する企業側と付与される側に分けて考える必要があります。
企業側のメリットとしては、①優秀人材の採用に活用可能②付与対象者のモチベーションアップ、などがあります。
またデメリットとして①株価が権利行使価格を下回れば士気低下につながる②付与基準が不明確だと対象者間に不満が生じる③株式を売却して利益を実現した人材が退職してしまう④既存株式に希薄化が起こる、などがあります。
一方付与対象者側のメリットとしては、①業績アップに努力した結果が株価上昇を通じて自己の利益に反映される②税制適格要件を満たしているので税負担が軽い③無償でSOを得ているので自己資金で株式を保有するよりリスクが低い、などがあります。
またデメリットとしては、①株価下落・低迷はモチベーションの低下を招く②権利行使期間が付与から原則2~10年以内と行使期間に制限がある③権利行使前に本人が退職してしまうとSOが効力を失う、などがあります。

2-2. SO(株式報酬型)

SO(株式報酬型/1円ストックオプション)が会社に導入されたときも、メリット・デメリットは企業側と付与対象者側に分けて整理しておく必要があります。
企業側のメリットとしては、上記SO(通常型)のようなメリット以外にも①役員退職慰労金の代替え機能として使える②行使価格を極めて低く設定しておけば、株価低迷時でも一定のインセンティブ効果を維持できる、などがあります。
またデメリットとして①もともと行使価格が低く利益が出やすいため、社員の継続的なモチベーションアップには使いにくい、などがあります。
一方付与対象者側のメリットとしては、①退職所得として要件を満たせれば退職課税が適用されるので税負担が軽い、デメリットとして①インサイダー取引規制に抵触して適時に現金化できにくい、などがあります。

2-3. RS

RSは譲渡制限付株式のうち、会社から決められた期間、勤務することを条件に株式が付与される仕組みのインセンティブ報酬です。
企業側のメリットとしては①付与条件が勤務年数のため、一定期間優秀な人材をつなぎ止められる効果(リテンション効果)、があります。また②付与者が条件を満たさず早期退職すれば、RSは会社に没収されるので抑止力にもなります。
デメリットとしては、①RSは業績指標を基準とした条件が付いていないため、PSのような業績へのコミットメントを求める力が弱い、があります。
一方付与対象者側のメリットとして、①事前にRSが付与されれば、譲渡制限は付いていても、「議決権」「配当金受取権」が付いているので株主と同じ立場になれる、があります。
そうなると、付与対象者も株主目線で経営を意識するようになり、ガバナンス機能の向上も期待できます。

2-4. PS

PSは譲渡制限付株式のうち、一定期間後の業績目標を設定して、達成度合いに応じて株式の譲渡制限が解除される仕組みになっているインセンティブ報酬です。
PSのメリットとしては①譲渡制限の解除条件が業績目標の達成のため、必然的に付与された経営陣に対して業績向上に対する強いコミットメント機能が働く、があります。また②RS同様、付与時点で「議決権」「配当金受取権」が付いているので付与者は株主と同じ立場になれる、があります。
一方PSのデメリットとしては①PSを企業は事前に与えてしまうので、付与対象者が業績目標を達成していなくても株主の権利を得てしまう、②会社が役員報酬として支給するPSの株式報酬費用は原則損金算入できない、などがあります。RSや後述のRSU、PSUなどは条件付きでも損金算入が認められているので、これはPSの持つデメリットといえるでしょう。

2-5. RSU

RSUはRS同様、譲渡制限付株式ですが、会社の決めた一定期間の継続勤務の条件を満たした後に株式が交付される仕組みのインセンティブ報酬です。
RSUの持つメリットは、①優秀な人材の流出を防止する効果(リテンション効果)が極めて高い、があります。RSU譲渡制限解除の条件が勤務年数であり、かつ事後的にRSUは付与されるので、その効果はRS以上に高いといえます。
また②報酬制度を自由に設計できる、のもあります。たとえば全報酬のうち、株式で80%交付して残りの20%を現金で支給する形です。この設計上のメリットは、付与対象者が流動性の高い現金を一部手にできることで、株式が報酬として付与されるときに納税資金が必要になる場合があり、現金を納税資金に回せるからです。
一方RSUのデメリットとして①RSと比べてガバナンス力で弱い、があります。
RSは株式を事前に交付されるので、付与者は当初から株主目線で経営に参画できますが、RSUは株式交付のタイミングが勤務年数の条件達成後となるため、投資家との利害一致がどうしても遅れがちになります。

2-6. PSU

PSUはPS同様、譲渡制限付株式の、会社が事前に設定した業績目標の達成度合いに応じて、後に株式もしくは現金が付与される仕組みのインセンティブ報酬です。(さらに勤務条件や株価条件を設計に付加できます)
PSUが持つメリットには、①PS同様、業績目標の達成度合いに応じて報酬が決定されるため、他制度比較でインセンティブ効果が最も高い、があります。また②RSU同様、報酬制度を自由に設計できる、があります。メリットの理由はRSUと同じで、報酬の一部を最も流動性が高く安全資産である現金にすることで、株式を報酬として手に入れた際の納税資金として活用できる、があります。
一方デメリットとしては①株式交付のタイミングで取締役会決議手続き等の事務負担がある、②株式が事後交付型なので、それまで議決権行使や配当金受領の権利を得られない、などがあります。

2-7. 株式交付信託

株式交付信託は、信託制度を利用して間接的に自社株式を役員や社員に付与する株式報酬制度の仕組みです。
株式交付信託活用の会社側メリットは、①自由な報酬プランの設計が可能、である点です。株式交付信託は、一定期間ポイントを付与して事後に交付する株式数を決める方式で、これまで説明してきたRSU・PSUのユニット型同様、報酬額において自由に株式と現金の割合を設計できます。
また企業側のメリットとして、②企業の業務負担を軽減できる、もあります。RSU・PSU等の取扱いでは、企業が直接付与対象者に株式交付するので業務負担も大きいです。しかし株式交付信託のスキームでは、株式の事務手続きや付与後の管理まで受託者である信託銀行が担当してくれるので、会社の業務負担を減らすことができます。
一方企業側のデメリットとしては、①業務負担を信託銀行に委託するので信託管理手数料がかかる、があります。直接管理のスキームと比較して余分に費用がかかるのはデメリットです。
また株式交付信託における役員・社員側のメリットは少なく、デメリットが中心になります。
デメリットとして、①役員・社員が実際に株式を手に入れるまでに一定期間かかる、があります。株式交付信託を企業が導入する際、会社は株式交付規程を作成して、評価期間にポイントを累積で付与するとともに、一定の時期が過ぎたら保有ポイントに沿って対象者に株式付与します。つまり付与対象者は信託終了期間が来るまで退職せずポイントも持ち続けなければならず、さらに株式を取得するまでは議決権も持てず配当金も受取りできません。
また②信託期間終了まで株式も売却できない、もデメリットになります。

2-8. ファントムストック

ファントムストックは業績達成をベースとした株式報酬制度のひとつで、実際の株式や株式の購入権利を付与するのでなく、架空で取引実態のない株式を付与する仕組みです。
そのため企業側のメリットとして①既存株式の希薄化が起きない、があります。発行元の企業にとって、ファントムストックはあくまで架空上の株式を付与するので、発行株式数は変わらず持株比率の希薄化もおきません。
企業側メリット②として、株式の希薄化もないので資本政策や株主総会での議決権に影響がない、あります。
なお、日本企業においては、現状、ファントムストックは海外に居住中の外国人幹部に利用が限定されているのが実情です。
これは、一般的に会社が株式を報酬として付与する場合、日本では付与対象者が事前に証券口座を開設しなければなりませんが、外国人幹部は非居住者であることから口座開設が困難な上に、様々な法律・税制度が異なっているため、ファントムストックを利用せざるを得ない状況にあるからです。
一方ファントムストックを付与される側のメリットとして、①他の株式報酬制度と比べて利益確定(現金化)までの手間が少ない、があります。
ファントムストックは、発行した会社の株価が付与時の時価より上昇したとき、株価の価値相当分を利益として受け取れる特徴があります。(フルバリュー型)
その際、ファントムストックでは株式を実際市場で売却して利益を確定する手続きを踏む必要がありません。その分早く現金化ができるので、これは付与者にとって大きなメリットになります。
また付与される側のデメリットとして、他の株式報酬制度と比べて税額が高くなる、があります。これは、ファントムストックは株式報酬ではなく金銭報酬であり、金銭が入るときに譲渡所得ではなく給与所得等として課税されるためです。

2-9. SAR

SARはファントムストック同様、業績に連動してインセンティブ報酬が株式または現金で与えられる仕組みです。
企業側のデメリットとして、①事前に資金負担額の見積もりするのが難しい、があります。
SRAの仕組み上、報酬支払を現金で行う際には、株価の値上がり相当分を事前に準備する必要がありますが、株価は変動するため、事前に見積もり額を正確に立てておくことは困難です。そのため必要以上に株価が上がってしまうと当初の想定以上にキャッシュアウトになってしまい、会社が資金不足に陥ったり、他の投資に資金が回せなかったりすることも起こります。
一方、付与対象者側のメリットとしては、①予め決められた株価を上回った場合、株価の値上がり分を差額として株式または現金で受け取れる、また②付与時に付与対象者が権利行使価格相当額の金銭を負担していないので、株価が下がったときには対象者が損失を被ることがない、があります。

3. おわりに

本記事においては、株式報酬制度における各インセンティブスキームの持つメリット・デメリットを他のスキームと比較しつつ詳しく解説してきました。
株式報酬制度については、インセンティブ報酬の種類も多く、それぞれ特有のメリット・デメリットがあります。
自社に制度を導入する際、どの株式報酬制度をどんな形で導入すべきか、経営者として相当悩むに違いありません。
導入に失敗しないためにも公認会計士・税理士等専門家のアドバイスは欠かせないと考えています。
会社の現状を客観的かつ冷静に見つめて、自社の成長・発展に資する適切なインセンティブ報酬の種類を見つけるようにして下さい。