持株会制度の意義とメリット・デメリット、導入の留意点(中編)

目次

  1. はじめに
  2. 持株会における会社側のメリット・デメリット
    1. メリット
      1. 福利厚生制度を充実できる
      2. 持株会が安定株主対策となる
      3. インサイダー取引規制の適用外である
      4. 事業承継対策として活用できる
    2. デメリット
      1. 持株会の持分数によって会社支配権が低下する
      2. 奨励金や配当金の支払義務が継続して生じる
      3. 退職時のトラブルリスクがある
  3. 会社が持株会を導入する際の留意点
    1. 持株会の株式保有比率
    2. 奨励金支給
    3. 配当金支払
    4. 持株会から脱退時の株式の買収価格
  4. おわりに

1. はじめに

持株会制度、すなわち従業員持株会制度について、(前編)では持株会制度の意義や仕組み及び流れ、従業員側から見たメリット・デメリットなど説明してきました。
本記事(中編)では引き続き、従業員持株会について、制度を導入した会社側から見たメリット・デメリット、及び導入に際しての留意点など詳しく解説します。

2. 持株会における会社側のメリット・デメリット

持株会において会社側から見たメリット・デメリットは以下の通りです。

2-1. メリット

2-1-1. 福利厚生制度を充実できる

会社側から見た従業員持株会のメリットの1つ目は、福利厚生制度を充実できる点です。
従業員が持株会に加入して資産形成の一環で自社株を購入していけば、奨励金や配当金などが得られます。
さらに会社が上場企業なら、株価が上昇すれば従業員個人の資産増加につながるし、未上場企業の場合でも上場の際に大きな利益(キャピタルゲイン)が期待できます。
従業員持株会は会社の福利厚生制度のひとつとみなせるし、制度の充実は他社との差別化、対外的評価にもつながるため、優秀な人材確保にも活用できます。

2-1-2. 持株会が安定株主対策となる

メリットの2つ目は、持株会の存在が安定株主対策となる点です。
会社にとり従業員持株会は長期かつ安定的に自社株式を持ち続けてくれる存在になります。
またより多くの従業員が持株会に参加してくれることで安定的な企業経営も可能です。
もしこれが第三者の一般株主に会社の株を大量に持たれると、ケースによっては敵対的買収を仕掛けられて経営を不安定化させられます。
さらに第三者による自社株式の大量保有は、株価の攪乱要因にもなりこれも経営の不安定要素です。
この点で従業員持株会は、自社株式が社外に流出することを押さえ、従業員が退職時にも持株会に株が残るようにも設計できるので、株式の分散が防げるという意味で広義の安定株主対策となります。

2-1-3. 従業員のモチベーションアップになる

メリットの3つ目は、従業員のモチベーションアップになる点です。
従業員が自分の仕事に励むと、会社の業績向上を通じて株価の上昇や株主でもある従業員の配当金の増加につながります。
それが好循環すると、株主でもある従業員はより自社の動向に意識を払うようになり、自然と経営参画の意識が生まれて仕事に対するモチベーションが上がってきます。

2-1-4. インサイダー取引規制の適用外である

メリットの4つ目は、持株会を通じた自社株式の取得はインサイダー取引の適用外である点です。
インサイダー取引とは、株価に影響を与える非公開情報(会社決算、新商品開発等)を持った内部の従業員が株を売買することを指し、こういう取引形態は適正な株価を歪めるので、公平な株式市場を担保する点からも法律で厳しく禁止されています。
しかし従業員持株会は、社員による定期的な株式の取得を目的に設置されているので、その取得はインサイダー取引規制の適用外になっているのです。

2-1-5. 事業承継対策として活用できる

メリットの5つ目は、持株会を会社の事業承継(相続)対策に活用できる点です。
ただしこの活用方法は未上場会社に限定されます。
企業の業況が長期的に安定して伸びている未上場会社の場合、その会社の株式評価(株価)は必要以上に高くなっているケースがあります。
しかしそれでは事業承継や相続が発生したとき、経営者の子息等の後継者が株式を取得する際の対価が高額になって事業承継や相続が困難になります。
そこでこれらの問題の解決策として使える方法のひとつが従業員持株会です。
未上場会社に従業員持株会を導入して、オーナーが保有している自社株式の一部を経営権に影響しない範囲で持株会に譲渡すれば、将来的に相続財産の一部となる株式数を減らせて、事業承継や相続への対策になります。

2-2. デメリット

2-2-1. 持株会の持分数によって会社支配権が低下する

会社側から見た従業員持株会のデメリットの1つ目は、持株会の持分数によっては会社の支配権が低下するという点です。
未上場企業だとオーナーの会社支配権が弱くなると言い換えられます。
会社支配権とは、一定以上の株式を持つ株主に許された決議内容に対する権力のことで、持株比率に応じて支配権の範囲は変わります。
すなわち従業員持株会に参加する従業員の数が増えれば増えるほど、逆にオーナー含む会社経営陣の支配権は弱くなるという構図です。
会社にとって、持株会にどれほどの株式数を付与するか、上限をよく考慮して制度設計する必要があります。

2-2-3. 奨励金や配当金の支払が継続して生じる


デメリットの2つ目は、奨励金や配当金の支払が継続してあるという点です。
従業員持株会は、会社業績が好調で奨励金や配当金を支払っても、資金繰り等に問題が生じない限り、制度としては効果的です。
しかしいったん業績が下降して奨励金が払えなくなったり無配当になったりすると、従業員のモチベーションや会社評価が低下してしまいます。
無理して配当金を払っても、最後には資金繰り難に陥ってしまうのでこれも得策ではありません。
それでも持株会制度を維持するため、多少の業績悪化は無視してでも奨励金や配当金の支払が継続して生じるのは会社側にとってデメリットといえます。

2-2-4. 退職時のトラブルリスクがある

デメリットの3つ目は、持株会に加入している従業員が退職する際のトラブルリスクです。
持株会加入の従業員が退職する際、会社は登録持分されている株式を現金で従業員に払い戻す必要があります。
トラブルはその際、持分をいくらで買い取るか、双方の価格の思惑の相違から起こりがちです。
持株会を制度設計した際、持分返還価格をいくらにするか、会社の規約で基準を決めておかないと、従業員の要求度合いによっては不本意な価格で高額買取りしなければならなくなるので注意が必要です。

3. 会社が持株会を導入する際の留意点

従業員持株会を会社が導入しようとする際の留意点を4つ解説します。

3-1. 持株会の株式保有比率

留意点の1つ目は、持株会の株式保有比率です。
会社が持株会を導入して従業員が持株会ルートで自社株式を取得できるようになると、その持株数に応じて以下の権利が付与されます。
図1

従業員持株会として相当数の株数を持たない限り、経営に直接的影響を及ぼすケースは少ないものの、第三者の一般株主と持株会が共同提案することで会社の重要な決議を左右できるようになることも理論上可能です。
そのため、会社としては、支配権の確保や節税の視点からも、制度導入時に持株会が株を持てる上限など、予め株式保有比率を決めておいた方が無難でしょう。

3-2. 奨励金支給

留意点の2つ目は、奨励金支給に関することです。
従業員持株会に奨励金制度が備わっているかどうかは従業員の大きな関心ごとです。
奨励金を支給するのか否か、比率はどれぐらいにするか、公認会計士・税理士等専門家からの意見も取り入れ制度設計する必要があります。
東証レポートによると、東証に属する上場国内企業3,752社のうち、3,239社(86.3%)が持株会制度を導入しており、さらに導入企業の9割以上が奨励金を採用して相場は5%~10%が7割以上です。(※1)
自社に持株会制度を導入する際には、上記の実態も参考にして奨励金支給も決めれば良いでしょう。
(※1) 参照先:東京証券取引所/2020年度従業員持株会状況調査結果の概要について

3-3. 配当金支払

留意点の3つ目は、配当金支払に関することです。
持株会ルートで自社株を購入した従業員が自社株を第三者に売却してキャピタルゲインを得ようとしても、持株会には様々な制約が掛かっているので自由に売買できません。
そのような点から持株会会員の期待はどうしても配当金に集中してしまいます。
もちろん配当金が高ければ高いほど持株会会員には喜ばれますが、支払原資がそれに回され過ぎると経営資金に影響してきます。
会社としては、配当金の支払基準を明確にして透明性を高めるとともに、経営に悪影響を与えないよう他の株主への影響も考慮しつつ、スムーズな持株会運営を図っていく必要があります。

3-4. 持株会から脱退時の株式の買取価格

留意点の4つ目は、退職、転職等の理由で持株会から社員が脱退する時の株式の買取価格に関する点です。
持株会導入に際して、会社として従業員の退職や転職時に持株会から本人が脱退するときの株式の買取価格についても基準を明確にしておく必要があります。
持株会の保有株が上場企業の株式なら退職時でも公開市場で売却して現金化は可能ですが、持株会の株式が未上場企業の株なら、持株会が買取りしなければなりません。
そのため持株会がどのような条件で買い取るか、その算出方法も含め、事前に社内規約に明記しておく必要があります。
未上場企業では従業員の退職時に、従業員の保有する株式を持株会が強制的に買い取り、その買取価格は取得価格等の一定額とする規定を社内規約に定めているケースが多く見受けれます。
過去の判例で、会社が従業員から取得価格で株式を買い戻す旨の合意につき有効との判決も出ています。ただし、判例は持株会の目的、強制買取条項の合理性、配当実績等の事情を総合的に勘案したうえで強制買取条項の有効性を判断している点には留意が必要です。
いずれにしても、買戻し価格をめぐってのトラブルを避けるため、会社は事前に基準を明確化しておく必要があります。

4. おわりに

従業員持株会について、前編及び中編において、持株会制度の意義や仕組み及び流れ、従業員側及び会社側から見たメリット・デメリットなど詳しく解説しました。
次回(後編)においては、最後に持株会制度における従業員持株会以外の3組織、拡大従業員持株会、役員持株会、及び取引先持株会について詳しく解説します。